始原生殖細胞の特許出願
昨日京大でマウスでiPS細胞から始原生殖細胞を作り、卵子を形成させ、人工授精させてマウスが誕生したという新聞記事が出た。これはマウスの成功例である。しかし、ヒトではいろいろ困難があるだろう、とのことだった。
ところが、今日、慶応大学の岡野栄之教授のグループがヒトでも始原生殖細胞を作ることに成功したという。
もちろん、始原生殖細胞から卵母細胞を経て卵子を形成させる過程は非常に複雑でこの部分はまだ培養ではできず、母体に戻して卵子を形成させる必要があるので、本当の意味で卵子をiPS細胞から人工的に作るのはまだ先のことだろう。
とはいえ、この成功により、ヒトでiPS細胞から精子と卵子を作れることから、例えば、交通事故等で亡くなった子供の細胞を保存しておいて、その子供と同じ遺伝子を持つヒトを作り出すことが可能になった。
もちろん、そうやって同じ遺伝子を持つ子供を作っても性格も才能も違う人格に育つとは思われるが、親にとっては救いになるケースもあるかも知れない。
さて、今回の報道を見て、まずマウスで成功、次にヒトでも部分的に成功、と報道された。
すると、それらを組み合わせるとヒトで卵子をiPS細胞から作り、同じくiPS細胞から精子を作ってヒトの子供を作る、というのは誰でも考え付く、ということになってしまう。
つまり、特許出願をした場合に進歩性がない、という拒絶理由が来るということだ。
そういう意味では、会社であれば、ヒトで完成するまで隠しておくが、今回発表を急いだのには何か裏があるのかも知れない。例えば山中伸弥京大iPS細胞研究所所長のノーベル賞受賞が濃厚になってきた、というような事情があるのではなかろうか?今年は一切山中先生のノーベル賞に関する記事が出ていないのでその可能性も考えられる。
とはいえ、医療方法の特許は出願しても、産業上利用できる発明に該当しないとして特許法29条1項柱書で拒絶される。だとすれば、今回のiPS細胞から精子、卵子を作って不妊治療に使用するような方法も特許出願せず、世間に公表して誰もが使えるパブリックドメインの技術にしてしまうという考え方もある。
ただ、それをやると、その応用特許を企業が押さえた場合にその応用特許(利用特許)が必須のものであれば結局自由に使うことができなくなる。それを考えると基本特許をアカデミアが取得し、広く安い金額でライセンスすることには大きな意味があると思われる。利用特許を出した企業が独占することを許さないためにも、基本技術は特許出願するべきと思われる。