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パイオニア発明の特許保護

iPS細胞特許に関する記者発表を本日午前中に行いました。弁理士会の定例記者会見です。

日米欧三極で成立したiPS細胞特許の権利範囲が異なるのは少なくとも3つの原因があると考えています。

欧州特許庁EPO (european patent office)審査基準によれば、発明の一般化の程度は、新しい分野を拓く発明については、通常の改良発明よりも、広く認める、というようなことが書かれています。

つまり、パイオニア発明については、記載要件が緩くなり、厳密に言えば書かれていない事項についてまでも特許を認めてもいい、というような意味だと思われます。

この規定があるために、EPOでは一般のサポート要件が日本とあまり変わらないとしても、ことパイオニア発明についてはより広い権利範囲が認められることになると解釈されます。

特許の権利範囲は三極中でも一番狭いです。具体的な遺伝子のセット(Oct3/4、Klf4、c-Myc、及びSox2)のみしか認められていません。

日本の特許の権利範囲が狭いのは、後進国時代のなごりなのではないかと推測します。昔はもし、広い特許を認めると、海外から基本特許が入ってきて、日本企業の企業活動が広く妨害されるおそれがあったためではないかと思われます。そのために、日本特許庁としては、できるだけ特許権の権利範囲を狭くする政策を採用していたということでしょう。

しかし、今や、年間5兆円の科学技術予算を国民の税金から支出しており、世界でも最先端の研究ができる環境は整っています。日本人のノーベル賞受賞者も近年かなり増えてきています。

そのような日本の状況を考慮すると、今後はどんどんパイオニア発明が出るはずです。そうとすれば、日本の特許でも、せめてパイオニア発明については広い権利を認めるべきではないかと思われます。

発表の後、新聞記者からいくつか質問がありました。

サポート要件についてはよくわからない、という質問があったが、要するに、明細書に記載してなければ権利は取れませんよ、ということです。

とはいえ、この部分が日本では非常に厳しく、米国は非常に甘い面があります。

法律には一見同じに見えるように書いてあっても、実際の審査基準は大きく異なる。全く異なる、と言ってもいいくらいです。アメリカでは、発明者が発明を保持していることを証明できるように書く、というのが記載要件で、そのためには、発明に関する属、種をしっかり網羅的に記載することが必要です。

これに対して、日本では、課題を解決できるように記載する必要があります。すると、パイオニア発明では、課題自体も不明ですから、将来的に発生する課題を予想して、その解決方法を網羅的に記載することはどうしても無理があります。

その点を考慮すると、EPOの上記審査基準は非常に合理的と思われます。ただし、この点について、欧州弁理士に聞いたところ、知らなかったので、あまりよく使われる規定ではないのかも知れません。パイオニア発明はそう多くないですから。

いずれにしても、日本も、もう少しサポート要件を甘くしてもいいのではないか?と思われます。でなければ、パイオニア発明の保護が不十分になるおそれがありますから。

 

 

 

 

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大平 和幸

弁理士、農学博士、特定侵害訴訟付記弁理士。東京大学大学院(修士課程)修了。修了後、大手洋酒食品メーカーでバイオテクノロジーの研究開発に約18年従事。その後特許情報部(知的財産部)、奈良先端科学技術大学院大学特任教授。特許流通アドバイザー。大平国際特許事務所所長。弁理士会バイオライフサイエンス委員会副委員長。iPS細胞特許コンサルタント。食品、医薬品、化粧品、バイオ等の化学分野が得意。機械、装置、ソフトウエア等の出願実績あり。

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