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元理研の高橋政代氏が網膜色素上皮細胞の特許を裁定請求

特許権は、基本的に独占権であるため、特許権者が許諾しないとその特許発明を実施できず、実施した場合は特許権侵害とされ、差止請求や損害賠償請求を受けることになります。

しかしながら、公共の利益のためなどで、例えば、医薬品のワクチンがどうしても必要で、特許権者の製造能力が足りない場合などには、裁定実施権というものが設定される場合があります。

裁定による通常実施権の設定は、特許が3年以上実施されていない場合、利用発明の実施のための基本特許の使用、公共の利益のための裁定実施権と3種類があります。

特許が3年実施されていない場合は、実施を希望する人は特許権者に通常実施権の許諾を求めて特許庁長官に裁定を請求できます。その場合は、特許庁が裁定の会議を開催して判断します。

利用発明の場合は、自分の特許発明をするのにどうしても使わないとできない特許(基本特許等)がある場合に、使わせてくれ、というものですが、今回の特許はおそらくこれではないと思います。

公共の利益のための裁定については、今回の特許の実施が、人の命を救うのにどうしても必要、等の理由であれば裁定が認められる可能性もありますが、そこまで逼迫した事情がなければ裁定は認められないでしょう。

私が弁理士受験生として勉強した頃は、裁定は制度はあるが、一度も利用されたことがない、と教科書に書かれていた記憶があります。今回の高橋政代先生の新聞記事でも裁定請求は史上初、と書いてあったので、初めて裁定制度が利用されることになります。いわば、歴史的事件ですね。

高橋政代先生と言えば、加齢性黄斑変性という病気をiPS細胞由来の網膜細胞を移植して治したことで有名です。しかしながら、その後の続報がなく、何らかの問題があったのではないか?という話を聞いたことがあります。

高橋政代先生は、特許をたくさん取っていたのをいくつか放棄したり、よくわからない動きをしたりもしていたようです。そのあたりは当事者しかわからないでしょうが、何かトラブルがあったのかも知れません。

京都大学の本所佑先生と小野薬品の訴訟ももめているようですが、企業と教授は利害関係が一致するとは限らず、途中からうまく行かなくなるケースもあるのかも知れません。

裁定実施権の設定を求めているのは、網膜色素上皮細胞の製造方法の特許で、東京のヘリオスという会社が特許権を持っているようです。

2016年頃から協議をしていたようですから、おそらく2014年か、それ以前の特許の可能性もあります。

高橋政代先生は、ヘリオスとの共同出願も多数している関係ですが、どこかで双方の利害が対立し、高橋先生がビジョンケアという会社を作ったのか、あるいは、高橋政代先生が自分でやりたいように発明を実施したくてビジョンケアを設立したのかは不明です。

いずれにしても、ヘリオスが臨床試験に入らず、それを不服として高橋先生が裁定請求をしたわけですから、それぞれの思惑があるのでしょう。

京都大学の本庶佑先生の場合も、要求がころころ変わったりするので、大学の教授はそういうのが当たり前なのかも知れません。それに対して、企業としては、企業間の常識のようなものがあり、それに則って仕事を進めるので、そのあたりの教授と会社の調整がうまく行かなかった可能性はあり得ます。

多くの場合は、企業が譲るのですが、ヘリオスが譲らない背景には、ビジネスが成り立たなくなるようなことを要求された可能性もあり得ます。もし常識的に無理を言っているのであれば、裁定は通らない可能性が高いです。法律は常識的な判断になりますから。逆に、高橋先生の方が正しければ、史上初の裁定実施権の設定が行われるかも知れません。

今後の裁定の会議の行方が注目されます。

関連があると思われる特許は以下のとおりです。全部で十数件あるようで、全部が高橋政代先生が発明者になっているわkではなく、笹井先生らの発明もあるようです。

特許第6518878号
網膜色素上皮細胞の製造方法
【登録日】令和1年5月10日
【請求項1】
ラミニン511E8フラグメントがコーティングされた培養基材上でヒト多能性幹細胞を接着培養する工程を含む、網膜色素上皮細胞の製造方法であって、接着培養する工程が、分化誘導因子の存在下で行われる、方法。

特許第6495176号
網膜色素上皮細胞の製造方法
【登録日】平成31年3月15日
【請求項1】
(1)ヒト多能性幹細胞を無血清培地中で浮遊培養することにより多能性幹細胞の凝集体を形成させる第一工程、
(2)工程(1)で形成された凝集体を、Rax遺伝子を発現する細胞が出現し始めるまでの間、ソニック・ヘッジホッグシグナル伝達経路作用物質を含まずBMPシグナル伝達経路作用物質を含む無血清培地又は血清培地中で浮遊培養し、網膜前駆細胞を含む凝集体を得る第二工程、及び
(3)工程(2)で得られた凝集体を、ソニック・ヘッジホッグシグナル伝達経路作用物質及びBMPシグナル伝達経路作用物質を含まずWntシグナル経路作用物質を含む無血清培地又は血清培地中で浮遊培養し、網膜色素上皮細胞を含む凝集体を得る第三工程
を含む網膜色素上皮細胞の製造方法。

特許第6495176号
【発明の名称】網膜色素上皮細胞の製造方法 (これは笹井先生の発明)
【登録日】平成31年3月15日
【請求項1】
(1)ヒト多能性幹細胞を無血清培地中で浮遊培養することにより多能性幹細胞の凝集体を形成させる第一工程、
(2)工程(1)で形成された凝集体を、Rax遺伝子を発現する細胞が出現し始めるまでの間、ソニック・ヘッジホッグシグナル伝達経路作用物質を含まずBMPシグナル伝達経路作用物質を含む無血清培地又は血清培地中で浮遊培養し、網膜前駆細胞を含む凝集体を得る第二工程、及び
(3)工程(2)で得られた凝集体を、ソニック・ヘッジホッグシグナル伝達経路作用物質及びBMPシグナル伝達経路作用物質を含まずWntシグナル経路作用物質を含む無血清培地又は血清培地中で浮遊培養し、網膜色素上皮細胞を含む凝集体を得る第三工程
を含む網膜色素上皮細胞の製造方法。

特許第6792844号 高橋先生は入ってなさそう
網膜色素上皮細胞の製造方法
【登録日】令和2年11月11日
【請求項1】
以下の工程を含む、網膜色素上皮細胞の製造方法:
(1)多能性幹細胞を、FGF受容体阻害物質及び/又はMEK阻害物質を含む培地で、30日を超えない期間培養する第一工程、及び
(2)第一工程で得られた細胞を、Nodalシグナル伝達経路阻害物質及び/又はWntシグナル伝達経路阻害物質の存在下において培養し、網膜色素上皮細胞を形成させる第二工程。

 

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大平 和幸

弁理士、農学博士、特定侵害訴訟付記弁理士。東京大学大学院(修士課程)修了。修了後、大手洋酒食品メーカーでバイオテクノロジーの研究開発に約18年従事。その後特許情報部(知的財産部)、奈良先端科学技術大学院大学特任教授。特許流通アドバイザー。大平国際特許事務所所長。弁理士会バイオライフサイエンス委員会副委員長。iPS細胞特許コンサルタント。食品、医薬品、化粧品、バイオ等の化学分野が得意。機械、装置、ソフトウエア等の出願実績あり。

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