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取消決定取消訴訟準備手続6回目知財高裁

特許登録になったものが異議申立により取り消され、その取消決定を不服として、知財高等裁判所(知的財産高等裁判所)に提訴するのが取消決定取消訴訟です。審決取消訴訟の審決が取消決定に替わるだけです。

その場合、原告は特許権者、被告は特許庁になり、特許庁で取消決定をした審判官3人中の何人かはこの取消決定取消訴訟に参加するようです。今回も異議申立の担当審判官のうち、2人の審判官が訴訟に参加していました。それ以外にも何人か訴訟が得意そうな特許庁の方が参加していました。最近は4人位特許庁の方が相手方としていることが多いです。

私が以前提携していた特許事務所も数年前に1回だけ拒絶審決取消訴訟をしたことがありましたが、その際は、1往復だけで決着し、あっさり負けていました。私はもちろん、それに関与していませんでしたが、審決取消訴訟は1往復で終わるものとたかをくくっていたら、今回はなんと、7回も準備書面を行き来させることになってしまいました。

弁理士にとっては回数が増えた方が仕事が増え、報酬も増えるのでありがたいのですが、クライアント様にとっては、予想以上に費用がかかると上司や社長への説明が必要になり、大変です。

今回は、クライアント企業様の都合もあって、弁理士の私以外に、弁護士事務所と一緒にやっているのですが、弁護士が書面を作っています。

弁護士さんがいうには、弁護士は裁判官の感覚と近いので弁護士が書いた方が理解してもらいやすい、とのことなのですが、弁護士さんが書いた文章は、私には、どうもあいまいで、どうとでも取れる表現が多く、玉虫色のような感じがします。スパっと一刀両断的に切り捨てる鋭さが感じられません。

この理由は、一つには、弁護士は文系なので科学技術を根本的に理解できていないために甘く書かざるを得ないのかも知れません。理系であれば根本の大元から完全に理解していますから、どちらか白黒はっきりした完璧な主張ができるのですが。もっといえば、相手よりもよく知っていれば、うまくごまかす議論ももっともらしく書けます。私は基本的にはそういうことはせず、真っ向から一刀両断する主義なので、そうした論理を作るようにしています。

科学者の議論は徹底的に突き詰めてディスカッションしますから、火の出るようなディベートになり、片方が泣き出したり、泣きそうになるまで完膚なきまでに叩きのめすこともあります。米国でのディベートはさらに過激なこともあります。とことんやりますから。

海外留学経験のある弁護士であれば、ディベートもお手のものでしょうが、国内でずっといる弁護士の先生はあまりそういう徹底的なディベートが得意でない方もおられる可能性があります。

また、アメリカの弁護士は、理系の学部を出てからロースクールに入って、bar exam(司法試験)に合格して弁護士資格を取ったのち、さらにpatent agent試験に合格して初めて特許弁護士になれますから、もともと理系です。そういう意味で、日本の、弁護士は当然に弁理士になれる、という法律は必ずしも世界標準でないともいえます。実際、bar examに合格しても、なかなかpatent agent試験に合格できない米国弁護士もかなりいると聞いています。

日本でも、弁護士が資格予備校の弁理士講座を受講する場合もあるのですが、司法試験に受かった弁護士でも特許法は難しい、という人もいるようです。そういうことからも、弁護士だから自動的に弁理士になれる、という制度は変更すべきと思います。

通常の審決取消訴訟は弁理士だけでやるので、弁理士が理系的に一刀両断的に明確な文章を書くことが多いですが、今回は弁護士さんが書類を作っているので、裁判所調査官の方が理解しにくいのかも知れません。

裁判所調査官は、特許庁出身か、弁理士出身のことが多いので、ほとんど理系ですから、論理は明確でスパッと切れる表現を好むような気がします。

そういう意味で、弁護士の書いた文章は裁判所調査官には理解しにくいのではないか?という気もします。

だとすれば、弁護士が書くよりも、弁理士が書いた方が審決取消訴訟や、取消決定取消訴訟では担当の裁判所調査官が理解しやすい可能性もあるだろう、と思いました。実際、知財関係でかなり有名な弁護士も審決取消訴訟はやらない主義のようです。根本まで理解できないからではないかと思います。

それが今回、6回も弁論準備手続が延びている理由である可能性もあります。裁判所調査官が理解しにくいからです。

逆に言えば、それだけ調査官も迷っている可能性もあり、それだけ、こちらの主張が考慮されている(有効である)ともいえるのかも知れません。

しかし、調査官が理解しにくいから時間がかかっているとすれば、こちらの言い分が十分明確に伝わっているかどうか?という不安も出てきます。

私としては、やはり、文章は、スパッと一刀両断的に明確に切り捨てる文章にした方がわかりやすい気がしています。そのためには完璧に科学技術を理解していて、さらに科学的議論がきちんとできる必要があります。科学界では到底受け入れられない頓珍漢な議論をしたりすると信用されません。また、理解していないと自信のなさが文章に現れることもあり得ます。それが調査官の印象となり、裁判官の心証に影響を与える可能性もあり得ると思います。

今回の経験から、次回からは、審決取消訴訟については、弁護士さんが一緒にはやりたい、と言ってきてもお断りする可能性が高いです。というのも、弁護士が書くとすると、論文が読めない弁護士もいて、私なら5分で読んで理解できるものを数日かけて読んでも理解できないわけで、そういう部分はその弁護士の先生では書けないので何等かの理由を付けて書かないようにしようとしてきます。すると、その部分を書いておけば一発で勝てる議論ができるのに、それができないことにもなりえます。

それではクライアント様の不利益につながりますから、私としては、理系出身の弁護士ならともかく、文系出身の弁護士の場合は審決取消訴訟や、取消決定取消訴訟は弁理士のみでやりたいです。

それに、科学技術をわかっていない弁護士に限って、本質的なことはしていないのに自分がメインにやったようにして手柄を独り占めしようとする傾向があるように思います。そういう場合はなおさら、そういう方とは組みたくないです。

弁護士の先生でもとてもいい人で信頼できる人もいますから、そういう先生は尊敬し信頼していますが、せこい人とは組みたくないですね。

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大平 和幸

弁理士、農学博士、特定侵害訴訟付記弁理士。東京大学大学院(修士課程)修了。修了後、大手洋酒食品メーカーでバイオテクノロジーの研究開発に約18年従事。その後特許情報部(知的財産部)、奈良先端科学技術大学院大学特任教授。特許流通アドバイザー。大平国際特許事務所所長。弁理士会バイオライフサイエンス委員会副委員長。iPS細胞特許コンサルタント。食品、医薬品、化粧品、バイオ等の化学分野が得意。機械、装置、ソフトウエア等の出願実績あり。

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