審決取消訴訟と異議の決定取消訴訟
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審決取消訴訟とは、文字通り、特許庁の審決(拒絶審決、無効審決など)に対して不服を申し立てて、その取消を求める訴訟です。
審決と書かれていますが、異議申立の取消決定(異議の決定)に対する取消訴訟も審決取消訴訟で行います。この場合には、異議の決定取消訴訟と呼ぶのが正確ですが。
一般に訴訟(裁判)では弁護士のみが代理人になれますが、産業財産権の侵害訴訟では、特定侵害訴訟付記弁理士も弁護士と共同で代理人になれます。
しかし、この審決取消訴訟に限っては、弁護士と共同でなくても弁理士が単独で代理できます。それは行政訴訟の延長と考えれば、ある意味自然な流れでしょう。他にも、弁護士以外の士業が単独で訴訟代理できる行政訴訟が多数あったと記憶しています。
訴訟の提起は、審決(異議決定)の特別送達を受領してから30日間です。
弁理士にとっては、審判請求に比べてかなり短い期間に訴状を仕上げる必要があるので大変です。それ以前に、訴訟を提起すれば相当な費用も発生しますから、会社等の出願人にとっても審決取消訴訟をするかどうか、の判断もすぐに決定できるとは限りません。むしろ、出訴期限ギリギリになったりする場合もあり得ます。
ぎりぎりに出訴が決まったような場合には、訴状には請求の理由(認否や反論)を書かずに、最小限の記載で出訴しておいて、第1回目の訴訟準備手続の10日前までに主張を書いた準備書面を提出することもできるので、訴訟を提起しておいて、それと平行して主張立証の準備を進めることも可能です。
とはいえ、訴状を提出してから準備書面の提出までも1カ月程度しかないので、そういう意味では、準備できる期間はかなり限られていますから、審決の謄本送達があれば、すぐに証拠を揃える準備を開始するのがよいです。また、準備書面の提出よりも前に証拠の提出を求められますから、早めに提出する証拠をリストアップしておくとよいです。
もちろん、証拠は裁判の終結間際まで提出は可能ですから、最初から全ての証拠を提出する必要はなく、審査過程で受領したり、提出した文献などで必要なものを提出すればよいです。
理論的に言えば、相手が否認も争い(反論)もせずに認める場合は、証拠は不要なので、最初の期日(または準備的口頭弁論の期日)に相手が否認または反論した主張に対してのみ証拠を提出すればいいのですが、それでは裁判官も理解する時間が短くなるので、早めに証拠を提出して裁判官に見ておいてもらうのがよいでしょう。
準備書面の準備期間が1ヶ月程度と短いとはいえ、最高裁への上告は2週間以内ですから、それに比べればまだマシ(長い)とは言えますが。もっとも最高裁上告の場合は判決謄本を受け取ってから50日間の間に上告理由書を提出すればいいので、実際には50日間の書面準備期間があります。
審決取消訴訟の場合、原告は特許権者、被告は特許庁長官になります。従って、訴訟になれば、審判を担当した同じ審判官が相手になるケースが多いと思います。実際、私がやった異議の決定取消訴訟でも異議決定をした審判官が2名被告に入っていました。
異議の決定取消訴訟では、審判官の合議体が下した判断の当否を審理し、裁判官が審決を維持するか、審決を取り消して審判に差し戻すかを決定します。審決を取り消した場合、特許庁が最高裁に上告するケースもあり得ますが。
審判では3人の審判官の合議体で議論して結論を出すわけですが、3人のベテラン審判官が合議して決定したからと言って100%正しい結論とは限りません。引用発明の認定を誤解している可能性もありますし、より説得力のある論理で議論すれば、審判官の結論(審決、異議決定)がひっくり返ることもあり得ます。
実際、最近の特許権の存続期間の延長登録に関する最高裁判例やプロダクトバイプロセスクレームに関する最高裁判例により、特許庁が負けて実務が従来と大きく変わることも増えてきています。
日本では、お上に楯突くのはよくない、という発想が江戸時代あたりから広まっていて、我慢する場合も多かったと思います。しかし、やはり理屈に合わないことはきちんと主張して正しい主張が認められるようにするのが特許制度だけでなく、日本や世界をより良くすることにつながると思います。
このあたり、東大首席弁護士の山口真由さんはあいまいなままで進める日本式にいい面がある、というようなことを言っていますが、明らかに他の判例と矛盾するような場合は、きちんと論理的に議論を尽くして正解を見つける方がよいと考えます。
大平国際特許事務所でも審決取消訴訟や侵害訴訟、発明者確認訴訟(共同出願違反の訴訟)等の訴訟も受任可能です(内容により弁護士との共同受任になります)。これらの訴訟を検討している方は、以下からお気軽にご相談下さい。