冒認出願と共同出願違反の特許を受ける権利の確認訴訟
平成23年の特許法改正前は、冒認出願と共同出願違反は拒絶理由、無効理由であったものの、真の発明者または共同発明者は、無効審判を請求しても、真の発明者に権利が移転することはなく、単に無効にできるだけでした。
これでは、せっかく冒認出願や共同出願違反が認められたとしても、その特許が無効になり、権利が消滅するので、他者も自由にその発明を実施できるようになることから、無効にする意味が少ないのが現実でした。なので、無効をちらつかせて、任意で持ち分を譲渡させたりするなど、和解で解決することが多かったと思われます。
それが、平成23年の特許法改正により、冒認出願や共同出願違反の場合には、真の発明者や真の持ち分所有者に権利を移転することを請求できるようになりました(特許法74条第1項)。
特許法
(特許権の移転の特例)
第七十四条 特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当するとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当するときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。
2 前項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録があつたときは、その特許権は、初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなす。当該特許権に係る発明についての第六十五条第一項又は第百八十四条の十第一項の規定による請求権についても、同様とする。
3 共有に係る特許権について第一項の規定による請求に基づきその持分を移転する場合においては、前条第一項の規定は、適用しない。
そのためには、裁判所に対して、特許を受ける権利を有することの確認訴訟を提起し、確認判決を得るか、または、裁判上の和解調書を作成する必要があります。
真の発明者あるいは、共同発明者は、特許を受ける権利を有することの確認判決を得、あるいは、裁判上の和解調書があれば、真の発明者は、特許庁に対し、出願人表示変更届を提出することで、出願人、あるいは、共同出願人になれます。手続的には譲渡証や譲渡契約書がある場合と同様です。
ただ、注意が必要なのは、特許を受ける権利の承継は出願が第三者対抗要件であることです。つまり、職務発明規定により、会社が特許を受ける権利を発明者から承継していたとしても、出願をしていなければ、相手に対抗できないので、それだけの理由で敗訴になります。
そうならないためには、特許を受ける権利の承継を証明するだけでは足りず、その特許を受ける権利に基づいて特許出願をする必要があります。これは第三者対抗要件を満たすための出願ですから、新規性が無くなっていても問題ありません。出願さえすれば第三者対抗要件を満たします。
しかし、共同発明者であるかどうかの判断はかなり微妙で、本当に発明の完成に寄与したのか、発明の特徴部分の発明にどう関与したか、を立証する必要があります。
共同発明者であると主張する発明者がやった部分が、誰でも必然的にそうなる、というような改良であれば、発明の特徴部分の創作に寄与したとは言えず、特許を受ける権利を有しているとは言えない場合もあり得ます。あるいは、技術常識の部品をアドバイスしただけでは共同発明者として認められないこともあり得ます。
共同発明者であることを証明するには、発明のどの部分にどう関与したかをしっかりと証拠を示して立証する必要があります。
このあたりをしっかり実験ノートで記載しておけば、将来の立証も容易になるので、開発者はぜひ綴じたラボノートに実験の記録をしっかりつけることをお勧めします。実験ノートをつけることで、その日の実験の整理ができますし、明日の実験計画も立てやすくなりますから。
この冒認出願や共同出願違反における特許を受ける権利の確認訴訟をする場合に、出願人が死亡している場合もあります。その場合は、通常は、相続人が相続しているので、その相続人を被告にして発明者確認訴訟をするのですが、遺族が相続放棄をする場合もあり得ます。
発明者は貧乏なことも多く、多額の借金をしていて亡くなったような場合です。その場合は、遺族も多額の借金を払うのは無理だったり、払いたくない場合もあるので、相続放棄することになります。
相続人全員が相続放棄した場合は、相手がいない状態での確認訴訟になりますが、そういう場合は、裁判所が特別代理人を選任することもあるようです。相手がいなければ、何も主張できないので、原告が勝つか、と言われれば、特別代理人が反論してくれば、原告が負ける場合も無いとは言えないでしょう。
ただし、共同発明か否かの立証責任は、特許権者側にあるので、発明者が死亡した場合は、遺族が相続したとしても、事情をあまり知らない場合は、特許権者のみが発明者である立証は難しいように思います。
それに加えて、共同発明者であると主張している原告の方が圧倒的に多くの情報を保有しているので、原告の方が有利であることはおそらく間違いないでしょう。
大平国際特許事務所では、冒認出願や共同出願違反への対応も行っております。お気軽にご相談下さい。