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幹細胞から毛包細胞を作って毛を生やす発明

毛をつくる器官のもとを幹細胞から作製して皮膚に埋め込む手法で、何度も生え替わる正常な毛を生やすことに、東京理科大の辻孝教授(再生医工学)や豊島公栄プロジェクト研究員らのチームがマウスの実験で成功し、成果を17日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表したそうだ。

http://sankei.jp.msn.com/science/news/120418/scn12041806580000-n1.htm

ひげの毛包から幹細胞を作って、それを移植することで、毛包器官を作らせたという。

こういう発明の場合、特許出願戦略が問題になる。

マウスでできたことを発表したことで、ヒトで成功しても、進歩性がない、という拒絶理由が来る場合があるからだ。

製薬企業であれば、こういう場合はマウスの成功は隠しておいて、ヒトでできてから特許出願するのが普通だろう。

今回の場合は大学の発明なのでそういうことはせず、すぐに発表したと思われる。大学の場合は、科学研究費(グラント)を獲得するために、早く発表せざるを得ない面はあるので、特許的には不利でも止むを得ないと思われる。

教授によっては、将来得られそうな結果まで学会発表に含める人もいるが、それをやると特許的には、当業者に予想可能、あるいは、動機付けがある、などの理由で進歩性が否定されるおそれがある。

そういう意味では、発明完成までは秘密にしておくのが特許戦略上は最も好ましいが、大学の研究者の場合は、研究費が取れないとどうにもならないので、せめて、出願してから発表するようにしてもらうしかない場合も多い。

とはいえ、特許出願したからと言っても、その後会社が話を聞きに来た場合に全部を話してしまう先生もいて、そうすると、将来の国内優先権主張出願に支障が出る場合もあり得る。その会社が何も言わなければ問題ないが、巨額の利益が関連するとすればどうなるかはわからない。

そういう意味では大学でも完全にヒトでの実験で証明されるまでマウスのデータを公開しないのが好ましい。

ただし、上記のケースでも、マウスとヒトで違うところもあり得、マウスのやり方のままではヒトでうまく行かなければ進歩性が認められることもありうるので、そういう事情があれば、マウスのデータを先に発表してもヒトの発明の進歩性が認められることもあり得る。

いずれにしても、今回の発明は毛の無い(毛髪の少ない)ヒトには朗報と言えよう。

筆者の大平はかつて研究者をしていた頃、hair growth factorが見つかれば、毛を生やすことができる、と考えていたが、再生医療で解決するならそれもいいと思われる。

 

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大平 和幸

弁理士、農学博士、特定侵害訴訟付記弁理士。東京大学大学院(修士課程)修了。修了後、大手洋酒食品メーカーでバイオテクノロジーの研究開発に約18年従事。その後特許情報部(知的財産部)、奈良先端科学技術大学院大学特任教授。特許流通アドバイザー。大平国際特許事務所所長。弁理士会バイオライフサイエンス委員会副委員長。iPS細胞特許コンサルタント。食品、医薬品、化粧品、バイオ等の化学分野が得意。機械、装置、ソフトウエア等の出願実績あり。

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