商標マフィアとピコ太郎のPPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)
ピコ太郎のPPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)が、ピコ太郎やエイベックスとは全く関係のない、ベストライセンス社によって商標出願され、話題になっています。1月26日放送の『とくダネ!』(フジテレビ系)でベストライセンス社の上田育弘氏の取材が放映されたそうです。
ベストライセンス社の代表の上田育弘氏は元弁理士で、ベストライセンス社と上田育弘氏の両方名前で出願人として年間合計約1万5千件の商標を出願しています。
2016年度の公開商標公報件数
1位 ベストライセンス 12474件
2位 上田育弘 2654件
3位 サンリオ 830件
4位 資生堂 591件
5位 花王 442件
商標を多数出願することで有名な花王さんの30倍以上もの商標出願をしています。
通常商標を1件出願する場合、3400+8600×区分数 の出願料がかかります。すると、1万5千件を出願した場合、全て1区分でも、15000×12000=1億8千万円の出願料金がかかります。
いくら上田氏が潤沢な資金を持っていても簡単に支払える額ではありません。
ところが、上田氏は特許庁の実務を逆手に取って出願料を支払わないで2カ月以上出願を維持し、その間に使いそうな会社に警告状を送って和解金を取ろうとしているものと思われます。これは一昨年もやっていて昨年もやっているので、おそらくこれで少しは成果が上がっているものと思われます。もし、成果もないのに続けているとすれば、特許庁や社会への嫌がらせかも知れません。
つまり、実体のない商標を大量に出願し、使用する可能性のある会社に高額で売りつけたりしていたのではないかと考えられます。これはまさに特許マフィアならぬ、商標マフィア、商標トロール(商標海賊)です。
このような行為により利益を得る人が出てくると、せっかくネーミングを有名にしても商標出願していなかったばっかりに、不当に不利益を被る人が出てくるおそれがあります。
しかしながら、法律はそんなに不公平なことは認めません。著名商標については以下の規定が商標法にはあります。
商標法第4条第1項第19号
他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)
これは、著名な商標を高額で買い取らせるような不正の目的で商標出願した場合には、登録しない、という規定です。
ですから、自社が使っている商標が著名または周知であれば、登録されませんから警告状が来ても放置しておけばよいと思われます。他にも周知商標は登録できないという規定が4条1項10号にありますし、混同を引き起こす商標も登録されません(同15号)。
この位のことは上田育弘氏も元弁理士ですから知っているはずですが、それでもやっているのは、商標法のこの規定を知らない会社をターゲットにしているのではないかと思われます。
だとすれば、情報弱者の弱みに付け込んでお金を儲けようという残念な人ですね。
それ以前に、今回の『とくダネ!』の取材料金として1時間5万円をオファーしたというから、空いた口が塞がりません。金儲けのために悪知恵を絞っている印象です。
上田氏は、テレビや新聞などから選んだ言葉を、毎日特許庁へ出願しており、多い日には1日50件ほど出願することもあるそうです。1件の出願に書類作成、商品・区分選び、電子端末操作で、20分かかるとすると、17時間、10分で出願するとしても、9時間位出願作業にかかる計算です。
上田育弘氏は、これまでに「PPAP」の他に「ゲス不倫」や「民進党」、「じぇじぇ」、「なども出願しているという。それ以外にも、日本知財学会、おさいふ決済、カケホーダイ、振動スピーカー、リニア新幹線、 読み放題 、GPS内蔵スマホ、新幹線、特許電子図書館、 スマホタブレット 、省エネ家電、ノイズキャンセル、スマホ充電車、微生物発電、無人運転、私のしごと館も出願しています。
面白いのは、商標モンスター 、IP MONSTER、 TRADEMARK MONSTERなどがあり、あんたのことやろ、という感じです。
上田氏はインターネット上でも批判されているそうで、ゆいきー@sagittarius_sbの以下のツイートが短時間で4000リツイートされたそうです。
「とくダネでピコ太郎PPAPの商標登録のニュースやってたけどこいつ最低やな 取材料1時間5万のくだりも腹立つ胸糞 元弁理士のおっさんが自分の金儲けの為に悪知恵働かせて片っ端から商標登録してるってほんまゴミ ピコ太郎と全国の上田さんに謝れゴミ」
弁理士として恥ずかしいですね。もう弁理士会からは除名されているので、弁理士会としては処分はできないでしょうが、できれば何とかして欲しいところです。
米国でも特許マフィア(パテント・トロール)というのが数年前に流行って、成長産業になり、何社も株式上場しましたが、最近は、特許適格性で特許が無効になったり、訴状の記載要件が厳しくなったり、非実施企業(non-practicing entity)には裁判官が厳しくなったり、負けた場合に相手方の訴訟費用(弁護士費用も含む)を支払う判決が出るようになったりして(トロール企業に数億円規模の損害賠償を求める判決が出るようになった)、パテントトロールから撤退する企業も出てきているようです。
そういう意味では上田氏の商標マフィア(商標トロール)はやや時代遅れ的な感もありますが、日本ではパテント・トロールよりは商標マフィアの方がやりやすいのでしょう。
特許庁も、こういう人に対しては、補正命令をかけて、30日以内に出願料金の納付がなければ即却下するなど、一般の企業に迷惑にならないようにして欲しいものです。
警告状を受けても放置すればいいですが、もし心配でしたら、私の事務所でもご相談に応じますのでお気軽にお問い合わせ下さい。