人体を構成要件に含む発明の特許出願

特許を受けるためには、産業上利用できる発明でなければなりません。これは特許法の条文(29条1項柱書)にも明確に規定されています。

これを言葉どおりに取ると、例えばあんま方法(按摩方法)の発明は産業上利用できる、つまり、あんま産業に利用できるから特許法上の発明に該当するように思えます。

しかしながら、人体を構成要件に含む発明は法上の発明には該当せず、29条1項柱書違反として拒絶されます。

これは、医療行為が特許になるのを防止する意味の規定ですが、医療行為は人道上広く開放すべきもので、特許にはなじまないという考えから、日本や欧州などほとんどの国で医療方法は特許の対象になっていません。

一方で、米国、オーストラリアは医療方法の発明も特許が取れます。米国の場合は医療方法(手術方法、治療方法など)の特許は取れますが、医師にはその権利は及びませんから、医師は自由にその特許発明を実施することができます。すると、医療方法の特許を米国で取っても、医師から実施料を取れるわけではなく、その方法を実施するのに使用するメスなどを開発して販売するベンチャー企業を間接侵害で訴えることになります。

そういう意味で、医療方法が特許になったとしても、米国では医師が免責されているので医師の行為を特許侵害で差止したり、損害賠償を請求することはできません。

あんまとかマッサージは人道上広く開放すべきものかどうか、と言えば、必ずしもその必要はないようにも思います。人の命にかかわるものではないですから。そういう見方をすれば、特許の対象にしても良さそうにも思いますが、日本の審査基準では人体を必須の構成要素とする発明は医療方法の発明と同様にみなされ、特許の対象にはなりません。

医療が産業であるかどうか、については議論があるところで、欧州でも以前、医療業は産業に該当しないので特許にならないというような規定がありました。欧州特許条約の改定により、産業という言葉が削除され、単に医療行為は特許しない、というだけの規定ぶりになったと記憶しています。

そういうわけで、あんまとかマッサージの方法は特許の対象になりません。特許出願しても上記の理由で拒絶されます。

その一方で、以前医療行為とされていた一部の行為が例外的に特許されるようになっています。これは医療ベンチャー保護のため等の理由です。

あんま業界からあんま方法や、マッサージ方法も特許にすべき、という強い要請があれば、あんまやマッサージの発明も特許されるようになるかも知れません。

なお、日本では特許になりませんが、米国や豪州では医療方法も特許になるので、米国やオーストラリアにパリ条約の優先権主張をして特許出願する手はあります。

また、将来法改正や審査基準の改定により、あんまやマッサージの方法も特許の対象になる可能性がゼロではないので、特許出願しておく、という戦略も考えられます。改正が無ければ拒絶されますが、改正で特許になれば独占できるので、そのリスクを取って特許出願してみるのも面白いかも知れません。

医療方法やマッサージ方法で権利化を考えている方はお気軽にご相談下さい。何らかの方法がある場合もあり得ますので。

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投稿者:

oipfdr

弁理士、農学博士、特定侵害訴訟付記弁理士。東京大学大学院(修士課程)修了。修了後、大手洋酒食品メーカーでバイオテクノロジーの研究開発に約18年従事。その後特許情報部(知的財産部)、奈良先端科学技術大学院大学特任教授。特許流通アドバイザー。大平国際特許事務所所長。弁理士会バイオライフサイエンス委員会副委員長。iPS細胞特許コンサルタント。食品、医薬品、化粧品、バイオ等の化学分野が得意。機械、装置、ソフトウエア等の出願実績あり。