アサヒビールとサントリーホールディングスが特許訴訟で和解
アサヒビールとサントリーのノンアルコールビール訴訟ですが、7月20日に知的財産高等裁判所(知財高裁)で和解が成立したそうです。
これは、サントリーホールディングスが、アサヒビールの「ドライゼロ」の製造販売差止を求めた訴訟で、東京地裁ではアサヒが特許の進歩性無しを主張し、勝訴していました。
今回の知財高裁での和解内容は明らかにされていませんが、アサヒはドライゼロを従来通り製造販売できるということで、アサヒビールへの満額回答、アサヒの全面勝訴とも言える和解内容のように見えます。実際、アサヒ側はアサヒビールの担当者がインタビューで、「結果に大変満足している」とのコメントをしています。
一方、サントリー側は、会社の担当者は出てこず、代理人弁護士のコメントのみでした。
両者は、ノンアルコールビールの需要減(と言っても1.7%増ですから微増してますが・・)やいたずらな紛争は望むところではない(サントリーの代理人)などと言っていますが、サントリーがアサヒのドライゼロの製造販売を差止できなかったということではサントリーの敗訴と言ってもいい内容のように思います。
もちろん、アサヒがライセンス料を払ったなどの事情があれば別ですが、おそらくそんなことはしていないでしょう。無効審判を取り下げることが、唯一サントリーの利益ではないでしょうか?
サントリー側の代理人は、1審の東京地裁では青柳玲子弁護士らでした。私としてはこれはちょっと意外で、非常に重要な訴訟なのでユアサハラの牧野利秋元知財高裁判事クラスに依頼した方がよかったのではないかと思います。
しかし、アサヒビールの代理人の大野総合法律事務所の弁護士、弁理士集団の方が優秀だったということだと思います。
非常に乱暴な言い方をすれば、理系の緻密な論理が文系弁護士の大雑把な論理を上回った、とも言えるかも知れません。
和解に至ったのは、おそらく、膨大な資料の作成や、実験が大変だったということもおそらくあるとは思います。しかし、それは重要な訴訟であれば、当たり前です。
裁判所としては、そうした膨大な資料を読むのに時間を取られると他の事件の処理ができなくなり、裁判が滞るのではないかと推測します。
青色発光ダイオード訴訟の場合も膨大な資料を提出したが、読んでもらえなかった、というようなことを中村修二さんが本の中で書いていました。
そのような、膨大な資料を提出する争いになると、裁判所は和解を勧めるのではないか、という気もしています。
資料が膨大だから、和解しろ、というのは一般に言えば問題ですが、訴訟を提起する側も短い時間で明確に納得させる論理を提出すべきと思います。
ただ、今回のような進歩性の微妙な争いでは、何とでも言えるので、理屈をこねて無理矢理進歩性があるような論理を作ることも可能で、そういう議論をするにはどうしても文章も長くなると思われます。
すっきりクリアに一刀両断できる論理が作れればいいのですが、そうでない場合には、傍証を積み重ねて全体として認めさせる、という迂回のような論理になるので、長くなるのだと思います。
サントリーのノンアルコールビールの特許が成立したのは、私から見ても意外な面がありました。しかし、審査基準上は特許にしてもおかしくなかったと思います。
ただ、審査では特許査定になるとしても、専門家が徹底的に突っ込むと、無効にされる特許も多いと思われます。審査官は1つの案件にそんなに長時間はかけられず、出願人がしっかり主張することでそれ以上の調査をしたりはせずに特許査定を出す場合もあります。
そういう場合に、世界中の文献を徹底的に調べれば何かしら無効理由が見つかることも多いです。
実際特許訴訟になって、無効資料が見つかって、攻守ところを変えるケースも決して少なくありません。
さらに言えば、特許訴訟をしかけると、逆に特許を無効にされるおそれがあるので、自社からは特許訴訟をしかけない、という方針の会社もあるようです。
これらを考えると、当たり前のような特許で差止や損害賠償訴訟をするのは、十分注意深くやるべき、と思います。