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長い拒絶理由通知への応答

最近、長い拒絶理由通知を受けることが増えてきた気がします。日本では、引用文献も4~5件程度が多かったのが、最近では7~8件位のが増えた印象です。さらに技術水準を示す文献が5件位付いている場合もあります。

これは、研究者の数が増え、科学雑誌も細分化して種類が増え、論文が多くなったことも一因でしょう。一説には1年間に出る情報量が、その1年前より以前の有史以来の情報全てを合わせたものよりも多くなっているとも言われます。それほどの情報量が毎年新たに発生しているわけですから、拒絶理由の根拠が多くなるのも当然でしょう。

日本の拒絶理由通知で10ページ以上、米国の拒絶理由(オフィス・アクション、office action)では30ページ位のものもあります。引用文献の数も、通常は5~6程度ですが、8とか、10以上文献やホームページが引用されるケースもあります。項目数が20位あることもあります。

日本の拒絶理由通知は、日本の実務を熟知しているので、私にとっては長くても引用文献が多くても何も問題ありません。

問題は、海外の長い拒絶理由通知で、反復が多い拒絶理由通知です。例えば、5種類の中から任意の2種類を選んで使用するような発明の場合、組合せは5×4で20種類できます。審査官の中には、この20種類を網羅的に各組合せ毎に拒絶理由を打ってきたりします。もちろん、引用文献は構成に応じて組み合わせを微妙に変えています。

すると、項目数で20項目となり、引用文献もかなり重複しますが、項目ごとに微妙に変えてきて、何がポイントなのかよくわからず、なぜ、このような形で拒絶理由を打つのだろう?と考え込むときもあります。

それに、各組合せ毎に拒絶理由を打たれると、その組み合わせ毎に反論をする必要があり、各組合せ毎に、構成の容易性、効果の顕著性、商業的成功、long felt needsなどを検討する必要が生じ、非常に大変な作業になります。

もちろん、それらを一刀両断できるような要素がある発明であればいいのですが、非常に技術水準に近い発明の場合は、あらゆる組合せに先行技術があったりして、とても一発で特許になるような限定もできません。(追記:その後、このような非常に長いオフィス・アクションに応答したところ、一回の応答で特許になりました。拒絶理由が長いからと言って必ずしも特許にするのが難しいわけではない、と気づきました。)

そのような場合でも、発明者に聞くと、先行文献との違いがクリアになり、意外に簡単に特許になる場合もありました。

ただ、一番苦労するのが、特許査定率の低い審査官に当たって、しかも、審査官の言っていることが分かりにくい場合です。

アメリカの審査官は審査官毎に特許査定率が出ていて、平均より低い特許査定率の審査官に当たると拒絶される確率が通常よりも高くなります。

そういう審査官の拒絶理由はやはり、あまりクリアではなく、頭が十分整理されていないような印象を受ける場合もあります。クリアカットであれば、完全に論理で真っ向から論破できるのですが、あいまいな議論で拒絶査定を出されるのが一番困ります。

そういう場合は、RCE(再審査請求)ではなく、アピール(審判)に持って行けば、審査官が変わるので、特許査定率が飛躍的に上がったりします。

実際、拒絶査定率が9割の審査官の場合に、アピールに持ち込み、審査官が変わるだけで、特許査定率80%に跳ね上がったりします。

アピールする場合は、最終拒絶理由通知(final office action)の応答期間内に、特許公判審判部(PTAB : Patent Trial and Appeal Board)に、審判請求書(notice of appeal)を提出し、審判請求料を支払う必要があります。以前は審判請求料は630ドルでしたが、料金改定で800ドルになりました。

審判請求中にもRCE(再審査請求)ができるので、アピールの中で補正が必要になれば、RCEをかけて、補正して、再度審判請求する、ということも可能です。その場合に最初の審査官がまた審査するかはわかりません。同じ審査官だと、RCEしても拒絶され、再度アピールするしかなくなる可能性もあり得ます。

特に米国の場合は、審査基準を正確に適用せず、ディベート的に自分の説に固執する審査官もいるようです。そういう場合は、RCEを繰り返しても特許にならない可能性が高いですから補正や継続出願で普通の審査官なら特許になるレベルにした上でアピールに持ち込むのがよいと思います。

日本でも、審査官毎に特許査定率を出してくれればいいのですが、日本では、拒絶査定が来たら一律審判一択しかないので、米国のように再審査を請求して同じ審査官が延々と審査する制度はありません。その意味では日本の方がいい制度とも言えます。

ただ、個人的には、日本でも再審査制度があれば、無駄な分割出願をしなくていいので、制度的にはあった方がよいと思います。ただ、その際、再審査では最初の審査官以外の審査官を希望すれば、別の審査官に担当してもらえる制度にできれば非常に使いやすい制度になる気がします。

審査官の人によるバラツキは欧州でも大きいそうです。無審査国のフランスの審査官や、特許出願の非常に少ない国(たとえばリトアニアなど)から欧州特許庁(European Patent Office: EPO)に審査官が来るので、出身国によって審査官のレベルに大きな差があります。

逆に言えば、甘い審査官に当たることもあるので、特許になりやすい面もあります。実際、日米欧の三極に同じ特許を出願した場合、欧州が一番広い権利が取れるケースも多いです。

審査官によってかなり違いがあることを理解して、どのように反論すれば特許になるか?は審査官により違うと思われますので、どうしても特許にしたい案件は審査官と面接して、審査官の拒絶理由の本当の意味を十分理解した上で、反論するのがお勧めです。

大平国際特許事務所でも、難しい拒絶理由の場合は、審査官と面接することをお勧めする場合が多いです。そうすることにより1回の意見書、補正書で特許化できる場合が多いです。

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大平 和幸

弁理士、農学博士、特定侵害訴訟付記弁理士。東京大学大学院(修士課程)修了。修了後、大手洋酒食品メーカーでバイオテクノロジーの研究開発に約18年従事。その後特許情報部(知的財産部)、奈良先端科学技術大学院大学特任教授。特許流通アドバイザー。大平国際特許事務所所長。弁理士会バイオライフサイエンス委員会副委員長。iPS細胞特許コンサルタント。食品、医薬品、化粧品、バイオ等の化学分野が得意。機械、装置、ソフトウエア等の出願実績あり。

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