米国とドイツの訴訟構造の違い 竹中俊子ワシントン大学教授
米国の特許訴訟と、ドイツの特許訴訟は大きく異なります。
米国の場合は、侵害警告状を送らずに、まずは訴訟を提起します。これは、警告状を出すことで、相手が差止請求権不存在訴訟等の訴訟を起こす利益を持つことになり、相手が有利な裁判所を選んで不存在確認訴訟を起こす可能性があるからです。
そこで、米国では、いきなり訴訟を提起するわけです。そして米国の場合は広範なディスカバリーが認められます。その分費用も高額で時間もかかります。ディスカバリーの平均費用は3億円位だそうです。期間も3年位かかります。その後訴訟になりますが、ディスカバリーでほとんど勝ち負けがわかるので、訴訟に至るのは3~4%です。
これに対し、ドイツの特許訴訟は、まず警告状を送ります。警告状を送っていなかった場合、相手がすぐに認めて訴訟が終結すると裁判費用を請求できなくなるようです。
そして警告状を送った後、訴訟をするわけですが、大体1年間程度で判決が出るようです。訴訟費用も1000万円程度でできます。これは、訴訟費用を敗訴者負担にするからで、もし負ければ3000万円位かかる可能性もあります。
昨年12月に米国では法改正があり、訴状にある程度侵害の事実を書く必要があるようになりました。それまでは、侵害品も侵害されたクレームも特定せずに訴状を提出できたのですが、それを悪用するパテントマフィア等がいたために厳しくなったようです。
このあたりはドイツや日本に近づいてきた、ということも言えると思います。
ドイツでは訴状で侵害を立証する必要があります。そのために日本のインカメラ手続きのような手続があります。しかしながら、これも認められにくい面があるようです。
アメリカのようなディスカバリーがなく、侵害の立証はドイツや日本の方が難しいと思われます。
もっとも、ディスカバリーも以前のように関連するものは全部、というのではなく、訴訟に必要なものだけに限られるようになったそうです。
このディスカバリーですが、米国内だけで使うという約束でやると保護規制がかかって、米国以外の国では使えないのですが、保護を無くさせる申請ができ、それが認められると他の国でも使えます。
ということは、証拠が集めにくいドイツや日本の訴訟をアメリカでも起こせばそこでディスカバリーを使って証拠を集め、それに基づいてドイツや日本でも侵害を立証できることになります。
韓国のボスコ等の訴訟はそのような形で立証されたようです。
そういう意味では、国際的なフォーラムショッピングとして、まずはアメリカで訴訟をして証拠を集めてから他の国で訴訟するのもよいかも知れません。