特許申請を弁理士(特許事務所)に依頼するべき理由
特許申請を自分でやる、という個人や会社もときどき見受けられます。最近では、製薬企業の中には医薬の明細書は社内弁理士が内製する、というところもあります。
医薬の場合には、1つの製品で年間数百億円、数千億円単位の売上をあげることも普通にありますから、その特許1つに数百億円×10(年、存続期間)としても数千億円の価値があるわけです。
ですから、徹底的に手間も時間もかけて明細書の完成度を上げるのは当然でしょう。発明者と何度もやり取りをして時には数百時間かけてでも完璧な明細書にすることに意義があると思われます。
弁理士に1時間程度の説明と資料のみで依頼しても、発明者が話してない特徴まではさすがに完全には理解できないですから、社内で徹底的にヒアリングすることでよりよい明細書を作成できるとも言えます。もちろん、弁理士もその分野の教授クラスの専門家であれば、少し聞いただけで全貌がわかり、知財部員よりもいい明細書が書ける人もいるとは思われますが。
そういう意味では、内製する場合でも社外弁理士に2重チェックを依頼することの意味はあると思われます。知財部員では気づかない視点からの修正点がある場合もありますから。
上記以外に、個人や中小企業で費用を節約するために自分で明細書を書く、というケースもあります。
その場合には、特許明細書を自分で書く手間と時間と書く人の時給を十分比較検討されることをお勧めします。
時給2000円として、特許明細書を作成するのに半年位かかり、50時間(正味約6日間)かかれば10万円、100時間(正味約12日間)かかれば20万円のコストがかかります。部長クラスが書くとなれば時給はその倍位でしょうから、もっとコストと時間がかかります。そうであれば弁理士に依頼した方が安上がりで質もいいものができます。
しかもその間その人は別の利益を生む得意な仕事に集中できます。例えば、明細書を書く時間を別の研究開発に向ければ新しい発明をして売れるヒット商品を生み出していたかも知れません。
しかし、例えば、30時間以内位(正味4日弱)で明細書と図面を書けるのであれば、ご自身で明細書を書いて自社出願する手もあると思われます。これは一度明細書を書いて弁理士に依頼して出願して、そのシリーズで数値だけを変えればいいような場合等が考えられます。
最初の出願を弁理士に依頼し、その後、ほぼ同じパターンの明細書を書くのであれば、それも可能と思われます。ただし、その間に判例が変更になったり、法改正や審査基準の改定があってそれに気づかなければ思わぬ損失を被るおそれもあり得ますから、そのあたりも自分で監視しておく必要があります。
さらに、自社出願の場合は、細かい明細書のテクニックが十分入ってなくて、拒絶理由に応答できない場合もありますし、あるテクニックを使うことで通常の明細書よりも広く権利が取れる場合もあり得ます。
私も自社出願された後に特許事務所に依頼してきた出願の拒絶理由を何度か体験しましたが、明細書の記載が少なすぎて補正できない、というケースもかなりありました。
自社で明細書を書く場合は将来の拒絶理由が来ることも想定して、それに応じて限定できるように様々なバリエーションを書いておく必要があります。
このあたりは特許事務所はひな形を持っている場合もあり、例えば、「潤滑剤としては、・・・・が挙げられる」等と大量の定義を書いておいて、拒絶理由が来たら、そのうちのどれかに限定して特許にすることも可能ですが、自社出願の場合はそうした記載が不十分で補正できないケースもありました。
また、サポート要件違反(記載不足)の場合は、記載していなければどうしようもありません。もちろん、技術常識であることを主張できれば拒絶理由が解消するケースもありえますが、ほとんどの場合は実施例まで減縮補正せざるを得なくなります。
また、自分で対応する場合、特許化できるギリギリの補正ではなく、限定し過ぎる傾向があります。そのあたりの感覚は特許庁とのやり取りを何度もしないとわかりませんから。
するとせっかく特許申請したのに、他社が特許を簡単にすり抜けられる(エスケープできる)ザルのような特許しか取れず、特許を出願した意味が無くなるケースもあり得ます。
そういう意味から言えば、特許申請は専門家の特許事務所(弁理士)に依頼するのが結局は安上がりではないかと思います。弁理士の数十年の経験が詰まった明細書の価値は数十万円は下らないでしょうから。
実際、アメリカでは1出願300万円も普通ですが、日本ではその10分の1位の料金で出願できます。