特許異議申立件数はアップルが米国で1位
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米国の特許戦略に関する書籍「エジソンが役員室にいたら」には、特許は権利行使しなければ持っている意味はない、というような記載がありました。
特許権を保有していても、侵害者を放置するなら何のために特許権を保有しているのか意味がわかりません。侵害を止めさせるためのものですから(もっとも、直接権利行使する以外にも、特許出願や特許権があることで他社の参入意欲を無くさせるという意味では役に立っている可能性もありますが)。
ですから、革新的な製品を次々と開発する企業は特許出願も重要ですが、他社が侵害していないか、常に市場に出回っている製品を監視する必要があります。
こういう侵害品は営業マンが見つけて来る場合も多いので、知財部(特許部)と営業部との連携も大切です。もちろん、日用品等であれば知財部員が買い物に行ったついでに発見する場合もありますが。
そして侵害品を発見したら、まずは警告状を出し、その後交渉して止めさせたり、ライセンス料を取ったりします。
交渉が決裂すれば訴訟に持ち込み差止と損害賠償を求めます。これには相当の費用がかかるので、少しの侵害だと訴訟費用が赤字になるので、ある程度泳がせておいてそれなりの賠償額に達してから訴訟する場合もあります。
こうした侵害品対策ともに、他社の特許出願への対策も重要です。自社製品の製造販売に抵触するおそれのある特許出願はもちろん、自社製品の特許出願に類似する特許出願についてもできる限り見つけて潰す必要があります。
日本でも昨年から異議申立制度が再開されましたが、特許が成立してから6カ月間であれば誰でも異議申立が可能です。
これは米国でも同様で、こうした異議申立が最も多いのが、アップルだそうです。
調査会社Lex Machinaが行った調査によれば、2012年9月から米国特許商標庁特許審判部(Patent Trial and Appeal Board:PTAB)に対し、アップルは252もの異議申し立てを行ったそうです。
日本の会社の場合、化学分野では会社でも年間1~数件程度他社特許を潰したい、という相談を受けますが、年間100件近くの異議申立は非常に多いと思います。それだけ特許部隊がしっかりしているのでしょう。
2位のサムスンが100件ですから、アップルの252件はその2.5倍で、飛びぬけて多いと言えます。
サムスン以下の順位としては、グーグル、LG、マイクロソフトとテクノロジー企業が続きます。なお特許申請件数自体は、意外にもアップルはそこまで多く無いようです。
私が10年位前に米国で聞いた話では、シリコンバレーのIT企業は特許はあまり取らずに、先行者利益で独占する、というような話でしたが、最近では事情が変わっているようです。GoogleやMicrosoftも数百件規模で特許を購入したりしていますから。
シリコンバレーでは他者のアイデアは知っていても盗まないという文化がありますが、東洋は基本的にマネするのでサムソン等が参入してきたことで、シリコンバレーのITの特許戦略も変わって来たのかも知れません。アイデアをサムソン等にマネされて損害が生じることを認識した可能性があります。
また、訴訟に対する防御の意味でも特許を保有するのは有効です。米国では訴訟になれば数十億円の賠償金は当たり前ですし、特許訴訟の場合は3倍賠償もありますから、1000億円規模の賠償金をなることもあります。そういう意味では、防御の意味で特許を保有しておくことも重要でしょう。撃たれたら撃ちかえすことで攻撃的防御が可能ですから。
日本でも異議申立制度が復活しましたが、これは特許を潰す側にとってはとてもいい制度で安価で手軽に特許登録の見直しをしてもらえます。特許を潰したい企業にとっては無効審判よりも使い勝手がよいです。
アメリカでもそれは事情が似ているようで、PTABがその温床になっている、とFortuneは分析しています。
とはいえ米国で特許を潰せる成功率は23%ですから、決して高いとは言えないでしょう。これは、審査部がしっかり審査して、特許にならない出願はきちんと拒絶しているから、とも言えます。
ただ、この異議申立により、個人発明家の特許を潰しているのが実情のようです。大企業なら優秀な特許弁護士が反論して潰されないで済むところを個人発明家の場合は大企業の弁護士との議論に負けるのではないかと思います。
いずれにしても、米国のIT系企業も特許を重視する方向に変わっていているように感じます。