基本特許と応用特許、利用発明
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昔は、欧米が基本発明をして、基本特許(例えば、ゼロックスの複写機の特許)を取得し、日本はその改良発明や利用発明(周辺発明)をして大量に特許出願して応用技術を特許化し、クロスライセンスに持ち込む、というような時期がありました。
広くて強い基本特許があったとしても、それに重ねる形で、利用特許を出願し、特許化することは可能です(もちろん特許要件具備が条件ですが)。
例えば、古い例ですが、長針と短針を有する時計、という発明があった場合に、それに日付機構を付けたり、電波時計で自動補正機能を付けたりすればそれは新たな発明として特許になりえます。ですから、基本特許が取られていても、その利用発明を全部押さえてしまうと、基本特許を持っている会社や人でも、その利用発明は実施できなくなりますから、より優れた製品を開発して販売することができません。
そこで、基本特許がある場合でも、その周辺特許を大量に取って、基本特許権者が身動きできないようにして、クロスライセンスに持ち込む、というのがかつての日本企業の特許戦略でした。言わば、質対量のバランスでクロスライセンスを受ける、という形です。バランスが合わない場合はその分のライセンス料を支払っていました。
とはいえ、このような戦略を取ったとしてもクロスライセンスに応じてもらえないと欧米の基本特許がある事業には参入できませんでした。
そのような場合には、相手の特許を徹底的に精査し、わずかな穴を見つけて、穴の開いた部分の新技術を開発することで、基本特許をすり抜けられる場合もあり得ます。これには、特許部と研究開発部門の密接な協力が必要でしょう。法律と技術の両方を熟知していなければ基本特許をすり抜ける技術開発は困難ですから。
キャノンはそれができたので、ゼロックスの特許をかいくぐってコピー機(複写機)を実用化できたそうです。この際は、研究者と特許部員が机を並べる位近くにいたので出来た面はあると思われます。
もっとも、一説には、キャノンが複写機を実用化した時には、ゼロックスの本当の意味での基本特許は期限が切れていた(存続期間が満了していた)という説もあるようですが。
いずれにせよ、法律を熟知している知財部員と優秀な技術者・研究者がチームになればいいという意味で、決して同一人物が両方を完全に熟知している必要はありません。また、法律と技術を熟知している優秀な弁理士をそのチームに入れるのも有効です。
大平国際特許事務所の所長の大平も、研究者歴20年以上で知財実務も15年以上の経験がありますから、そのような基本特許をすり抜ける戦略を立てるのが得意です。
最近は日本の科学技術レベルも上がり、世界的な基本特許、例えば、青色発光ダイオードや、iPS細胞特許等のノーベル賞にもなるような世界を変える基本特許が取れるようになりました。
事業をする際には、基本特許を取れればそれに超したことはありませんし、基本特許と周辺特許を押さえて特許壁を作り、他社がその事業に参入できなくするのが理想でしょう。
とはいえ、基本特許を他社に取られていたとしても、その会社も全ての事業分野まではやらず、一部は他社にライセンスするケースもあり得ます。
あるいは、基本特許は持っていても、周辺特許を他社に取られてしまい、クロスライセンスに応じざるを得ないようなケースもあり得ます。
ですから、応用特許や利用特許でもないよりははるかにマシです。少なくとも自社製品そのものを保護できる特許は持っておいた方がよいと思います。全てノウハウで秘匿するという戦略を取る場合は別ですが。
ただ、工場内で秘密環境で行われる製造方法等は無理に特許化する必要はなく、その技術が使えるようにさえしておければいい、というケースもあり得ます。
その場合は、その発明内容を公証人役場に届けておくこともできます。そうすれば、他社がその後特許出願して権利化してもすでに実施していた証明になりますから先使用権を主張できます。
ただ、先使用権の証明はかなり大変ですし、先使用していた発明以外は他人の特許があれば実施できませんから、やはり他社が特許出願をする可能性があるようなら特許出願するのがよいと思われます。
あるいは、社内紀要のような超マイナーな雑誌に少しだけ概念を記載し、他社が特許を出してもその雑誌の論文を理由に進歩性が否定されるようにしておく、というやり方もあるかも知れません。
電気やソフトウエア関係では、非常に特許がたくさん出願されていて、広い権利は取れないような技術分野もあります。そういうジャンルで、どうしても特許を取りたい場合は、いろんな角度から検討し、ある切り口で権利化すれば特許化できる、というのを見つければ非常に優れた基本特許が取れるケースもあり得ます。
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