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特許出願前に微生物や細胞等を寄託するメリット、デメリット

特殊な抗生物質を生産する放線菌株を発見したような場合、その菌株自体が特許になります。

権利化したい場合は特許出願するわけですが、その場合は、実施例にどこの土壌から取れた、と書いたとしても、同じ土壌を採取しても同じ菌株が取れるとは限りません。たまたまその時期にだけいたとか、抗生物質生産株がその生産能を失うことはよくあることですから。

すると、当業者がその抗生物質の発明を実施しようとしてもできません。つまり、実施可能要件を満たしません。しかし、もし発明者の持つ抗生物質生産菌株が入手できれば実施可能要件は満たします。

そこで、通常入手が不可能な菌株や細胞株については、特許庁の微生物寄託センターか生物寄託センターに寄託することでその菌株、細胞株やその子孫まで特許で保護することができます。

そのためには、特許出願前に寄託する必要があります。

ただ、通常は、寄託した株は請求があれば、ライバル会社にも菌株を提供されてしまいます。

すると、他社にその菌株の特徴がばれることになります。これはかなりのリスクを伴います。

例えば、スーパードライ(ビール)の酵母を寄託して特許出願したとすると、アサヒビール以外の、キリン、サントリー、サッポロ社もスーパードライを作る酵母を入手することができることになります。

そうなると、その酵母の特徴を分析し、自社のビール酵母コレクションの中からスーパードライ生産酵母に近い性質の酵母を選び出し、スーパードライとほぼ同じ味のビールを生産されてしまうおそれがあります。

あるいは、さらにいいビールを作られてシェアを奪われる可能性さえもあります。

そういうおそれがあるので菌株を寄託すると、菌株の特徴が他社に漏れるのでデメリットもあります。

そういう意味では、同じ菌株は他社が入手できないと考えられる場合は、特許出願せず、ノウハウとして秘密に保持する戦略もありえます。

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ライター紹介 ライター一覧

大平 和幸

弁理士、農学博士、特定侵害訴訟付記弁理士。東京大学大学院(修士課程)修了。修了後、大手洋酒食品メーカーでバイオテクノロジーの研究開発に約18年従事。その後特許情報部(知的財産部)、奈良先端科学技術大学院大学特任教授。特許流通アドバイザー。大平国際特許事務所所長。弁理士会バイオライフサイエンス委員会副委員長。iPS細胞特許コンサルタント。食品、医薬品、化粧品、バイオ等の化学分野が得意。機械、装置、ソフトウエア等の出願実績あり。

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