特許事務所の売上と経費の構造
この記事は約 6 分で読めます。 4,857 Views
特許事務所の売り上げの主要な部分は特許出願明細書の作成・出願料と、その後の審査対応、審判、訴訟、登録時の成功謝金です。それと、内外、外内の外国出願や外国からの日本への出願と翻訳、審査対応もあります。あとは、期限管理や特許維持年金の納付などが少しの売上げになります。
法律特許事務所でなければ、訴訟がメインの特許事務所は多くないと思われます。訴訟もやれれば巨額の売上げになり得るので、通常の特許事務所とは異なる収益構造になります。特許出願等は20万~40万円程度ですが、訴訟になれば、それよりも何桁も上の売上げになり得ますから。
特許出願明細書を書くのは、人間の頭脳労働みたいなものですから、そのために原価や経費がかかるわけではありませんが、人間の頭脳労働の時間が必要になります。つまり、その分の人件費が経費となります。
それ以外の経費としては、事務所の家賃と、期限管理等を担当する事務職員の給与が間接経費としてかかります。事務所によっては翻訳者も雇用していれば、翻訳者の人件費も必要です。
ですので、弁理士の売り上げは基本的には間接経費は30%以下程度で利益率が高いという見方もできます。が、それは原料購入などのコストがかからないだけで、明細書の作成には非常に多くの時間をかけているので、決して楽して稼げる世界ではなく、働けば働くほど売上げが上がりますが、働かなければ売上げがなくなる労働収入の世界です。
この点、製造業の場合は、工場の製造ラインが製品を作ってくれ、営業マンが販売してくれますから、一部の社員が働かなくても売上はあがります。ですから、窓際社員を雇っておける余裕があります。しかしながら、特許事務所は完全労働収入ですから、自動で売上があがる仕組みはありません。つまり、弁理士や事務所員の労働そのものが製品でそこから対価を頂いています。
労働そのものが商品ですから、商社のように、接待に時間をかけて、売るのは一瞬、というわけには行きません。接待して成約したらそこから労働が始まり、それがお金を有無ので、営業マンのように売ったら終わりではなく、売ってから本格的に仕事が始まるわけです。そして、同じ商品をリピートしてくれることはなく、毎回異なる発明について特許出願の明細書を作成します。
明細書の作成には、通常は1ヶ月程度かかります。と言っても、そればかりやっているわけではなく、複数の仕事をかけもちしながら月何件かの明細書を作成します。全てが労働収入で、何もしないで売れていくことはありません。
昔は標準料金表があって、腕が良かろうが悪かろうが、1出願30万円と決まっていて、しかも出願数も非常に多かったので、おいしい商売でしたが、最近では弁理士数が増え、料金も自由化されたので、従来よりも料金が安くなる傾向にあると感じています。昔のように、何の追加もなしに国内優先権主張出願をして30万円を課金する、というおいしい仕事は減っているということです。
事務所によっては事務職員数が多く、3割よりも多くの経費がかかっている場合もあります。
その一方で、商品を販売するように、売れた瞬間に利益が発生するものではなく、受注してからが仕事(労働)のスタートとなります。つまり、商品の営業のように、売るために時間を使って、売ってしまえば、利益確定、というわけではなく、営業活動をして受注してからが仕事の開始となり、それから数時間~数十時間の労働をして初めて収入が発生します。
発明をヒアリングしてから、明細書を作成するのに、非常に簡単で早くできるもので10時間程度、難解で難しいものの場合は、30時間以上の時間がかかります。その時間はその作業しかできず、他のことをして収益を生み出すことはできません。
工場のように定番製品があれば、定常的にそれを販売して一定レベルの収益を確保できますが、特許事務所にはそうした日用品的な定番商品はありません。明細書を書く等の労働のみが収益を生み出します。
そういう意味では弁理士はコンサルタント同様、知識・ノウハウを販売しているわけで1時間いくら、という労働収入と考えるのが一番わかりやすいと思います。そして、その単価が高い弁理士は儲かり、その単価が低い弁理士は食べて行けず、廃業することになるとも言えます。
ですから、商品を受注した後、簡単にキャンセルができる日用品等とは性質が違います。何等かの事情で出願をキャンセルする場合でも、特許出願明細書はそのお客様のためにカスタマイズして作成した商品ですから、他社に転売することはできません(法律的にも特許を受ける権利の譲渡を受けなければできません)。
ですから、もし、特許出願明細書の依頼を受けてキャンセルされた場合、その間の労働時間分の費用をいただかなければ、全くのただ働きになってしまい、事務所の運営ができなくなりますし、所員にも給料が払えません。そういう意味で特許出願の依頼を受け、明細書が完成しているにも関わらず出願に至らない場合は、特許出願明細書作成料をいただくのが普通です。
これは、特殊な(その人しか買わないような)注文建築の家を建ててくれ、と依頼された建築業者が建築をし、その後、発注者が、「やっぱりいらない」と言われても他所に転売できないので建築費はもらう、というのと似ています。
特許事務所の収益率は一見高く見えるかも知れませんが、全ての労働が商品そのものなので、よほど早く明細書を書いたり中間処理をしないとそれほど儲かりません。特に難しい中間処理で1週間潰れると週給5万円以下になる場合すらあり得ます。
従って、他の有体物の商品のように、購入決定までの相談や試供品は無料、というわけには行きません。他の商品は一度受注すればその後も継続して受注でき、ほとんど何もしなくても同じ商品を販売して収益が発生しますが、明細書はその都度専門家が時間をかけて毎回異なる物を作成するいわば特注品です。
そういう意味では、コンサルタントのように弁理士は時間当たりいくらで仕事をしている、というのが実態に近いと思います。実際、1時間数万円で仕事を受任することもありますから、コンサルタントとほぼ同じような感覚です。ですので、弁理士への相談料は、30分5000円以上の有料なのです。
その点が商品説明はいくら長時間聞いても無料の商品の営業マンとは異なります。営業マンは売れたらそこで仕事が終わりですが、弁理士は売れてから商品作り(明細書書き)が始まるのですから、最初の相談段階だからといって無料で長時間コンサルティングすることは難しいです。相談が特許出願に至った場合は、相談料は出願料に含まれますが、相談のみで特許出願に至らなかった場合は、コンサルティング料をいただくことになります。
要は弁理士はコンサルタントのようなもので、明細書を書くこと等の労働自体が商品であり、収入源というわけです。知識、ノウハウを売るナレッジワーカーですが、成果報酬制ではなく、働いた時間分の労働収入を得ると言う意味では会社員や時給制のパートさんやアルバイトさんと本質はそれほど変わらないのかも知れません。
大平国際特許事務所も事情は同じですが、特許出願以外にも、戦略コンサルティングやコーチングも行っております。そして、その方が企業様の利益に直結する場合もあります。戦略コンサルティングにご興味のある方は以下からお気軽にご相談下さい。