下請け中小企業の自社製品開発と特許出願
従来下請けに依存してきた中小製造業は、リーマンショック、東日本大震災、円高による空洞化で大きな影響を受けている。
例えば、日産自動車のマーチの製造がタイに移転したために打撃を受けた下請け企業は相当数に上ると思われる。リーマンショックで相当数の従業員を解雇せざるを得なかった下請け企業もある。
中には製造業の約7割が赤字という県もあるようだ。私の事務所の取引先の中にも売上が伸び悩み、あるいは赤字という中小企業もあり、新製品を開発し、特許出願して活路を見出そうとしているクライアント様も多い。
そんななか、生き残りをかけて自社製品を開発しようという動きが加速しているという(日経新聞12/3の記事)。
例えば、愛知ドビー(名古屋市、土方邦裕社長)は産業機械の鋳物部品を製造するメーカーだったが、今では売上10億円のうち、6億円を自社開発製品の「バーミキュラ(VERMICULAR)」(鋳物ホーロー鍋)が占めるという。
http://www.vermicular.jp/
この会社は東芝、三菱重工、住友重機械工業等が主な取引先で、精密加工技術を持っている。その技術を使えば密閉性の高い鍋を作れると判断し、2007年に開発を始め2010年に発売したようだ。わずか2年で会社の売上の6割がこの新製品というから驚きだ。
密閉性を高めるために、0.01mm以下の精度で削り、目に見えない凹凸もなくしたという。この鍋をネットで販売したところ、「無水料理」が可能で食材本来の味を引き出せることなどから人気を呼んだ。来春までに1億円を投資して製造能力を6割上げる予定のようだ。
プラスチック成型加工の旭電気化成(大阪市、原直宏社長)は、小さく折りたためるランタン等アイデア雑貨を中心に自社ブランドで年間約50点の製品を投入している。多品種を出せば金型のコストがかさむが、金型も含めて中国で委託生産することでコストを低減しているそうだ。
旭電気化成でも全社売上の約6割を自社製品が占めるという。そして自社製品の利益率は下請け仕事の2倍以上だそうだ。そのため、下請け仕事が減っても会社の利益は減っていないという。
川崎市の液晶関連の電子制御機器製造の伊吹電子(松田正雄社長)は、携帯型の音声拡張器「クリアーボイス」が売上の約4割を占める。携帯電話に似たデザインで、相手の声を聞き易くする装置だが、補聴器よりも大幅に安い1万円台の価格帯がヒットしている理由の1つのようだ。
生産では下請け仕事で培ったはんだ付けなどの技術が生きているという。
このように、言ってみれば、レーザーで豆腐を切るような精度で日用品を作れば極めて高性能な製品が製造でき、それをネットを通じて販売すれば営業コストもかからない。今後は下請け中小企業が自社製品を開発し、インターネットを通じて販売するという形態が加速する可能性もある。
そういう場合に、必要に応じて特許出願、商標登録出願等しっかりと知財戦略を立ててその製品を独占販売することで、利益を最大化できると考えられる。