特許出願明細書の実施例の書き方
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私は主に個人向けと会社のお試し用に激安特許出願というのもやっているのですが、その場合、実施例と図面は発明者様に書いて頂くことにしています。
実施例というのは、実際に発明者が行った実験や試作のやり方、データ、製品の使い方、などを書いた部分です。レシピ、仕様書や使用説明書のようなものです。この部分は実験データですから、当所で勝手にねつ造するわけには行きませんし、発明者が一番詳しくわかっているので、発明者様が書くのが一番効率もよいと思います。
弁理士でも自分の専攻分野でやったことのある実験であれば書けるのですが、やはり、実際にやった人でないとわからない部分もありますし、最新の装置やキットだとわからない部分があり得ます。そのため、実際に実験を行った発明者様に書いて頂くのがベストだと思います。これは会社や研究所の知財部でも同じだと思います。
科学者で研究を論文にまとめたことのある方であれば、材料と方法(materials and methods)という部分、および結果の部分が実施例に該当します。実験プロトコールくらい詳しく書きます。
ただし、特許明細書の場合は、所定の記載要件、実施可能要件を満たす必要があるので、専門家がそれを読めば、実際にその物を作れ、使用できる必要があります。
この点が科学論文のようにわざとできないように書いても(ノウハウを隠しても)問題ないのとは異なります。実施可能要件を満たさなければ特許の場合は拒絶理由、無効理由になるので、実際に実施できるように書くことは必須です。
イメージとしては、修士論文、博士論文の材料と方法くらい詳しく書くのがよいです。装置や試薬はメーカー名、型番まできちんと書きます。さらに、そのメーカーが潰れたり、型番が変わっても代替品で実施可能にするために、一般的な形で原理や材料、原理なども書いておくのが望ましいです。
一般的には、メーカーと型番を書いておけば材料に関しては実施可能要件を満たします。しかし、特別な抗体や細胞を用いないとできない場合は、その抗体産生細胞や細胞を特許微生物寄託センターなど所定の機関に寄託する必要がある場合もあります。
発明者の中には、実施例を書くことが難しい方もいるようです。その場合には当所で実施例、図面も含め全体を作成することも可能です(その分料金は上がります)。
実施例を書いて下さい、というと、かなり多くの人が明細書全体を書いてきます。私としては、実施例と図面でよいと言っているのですが、なぜか、請求項も含めて全体を書いてきます。実施例の意味が分かってないのかもしれません。ただ、背景技術も書いていただけると非常にありがたいです。
実施例は実施形態の中に書く場合もありますし、実施形態の後に【実施例】として実施形態と分けて書く場合もあります。いずれにせよ、実際にその発明を実施した方法、製造方法、使用方法などを書いた部分です。
基本的には、実際に試作したり、実験をしたりしたデータを記載します。実験をせずにこうしたらできる、という形で書くこと(ペーパーイグザンプル)もありますが、日本では実施例がそれのみの場合は拒絶されるケースもあり得ます。ただし、そのとおりにやってみたらできた場合はペーパーイグザンプルでも実施可能要件を満たすと判断される場合もあり得ます。
実際に実施せずに理論的にこうやればできる、という形式の実施例はペーパーイグザンプルと言われ、言わば頭の中だけで考えた実施例ということです。米国では、ペーパーイグザンプルについては制度上認められており、文末を現在形で記載することになっていますから、ペーパーイグザンプルは文章を見ればわかります。
特に、個人発明家の方で、永久機関を発明した、というような場合は必ず試作をしたり、比較対象(コントロール)のある実験をして、きちんと機能するかを確認することをお勧めします。頭の中ではできても、実際に作ってみると些細なところで問題(摩擦や開閉速度等)があったりして現実には動かない場合もありますから。
実施例の書き方としては、同業の専門家(当業者といいます)がその実施例を読めばその発明品を作れ、使用できるように書く必要があります。
ですから、実施例には、製造方法、材料、使用方法等を書く必要があります。論文でいえば、実験材料と実験方法に書くようなことが該当します。製品でいえば使用説明書や仕様書のようなものです。
実際にやってはいないけれど、理論的にできるものがある場合は、そのバリエーションを実施形態の方に書くのが一般的ですが、実施例に書いても問題ありません。例えば、実施例ではカム構造で書いているけど、クランクでもできる場合はそれを実施形態に記載して請求項をその両方を含む形で書きます。
バリエーションを書いておかないと特許請求の範囲から少しずれたものを使われた場合に特許権の範囲から外れてしまうおそれがあります。また、先行文献が合った場合に請求の範囲を補正で限定するためにもバリエーションを書いておくことは有効です。
また、製造方法では、材料の材質もできるだけ広く書いて置く必要があります。ゴムなのかプラスチックなのか、アクリル樹脂なのか、等です。材質については、属(genus)をまず書き、次にその種(species)を書きます。例えば、魚類という属を書いて、次に、スズキ目、さらにその下位の種として、スズキ、マダイなどを書きます。つまり、階層的に書くのがよいです。この部分をしっかり書いてないと、米国では、発明を所有していない、という拒絶理由がきますから、米国出願を予定している場合はしっかりと属、種を列挙する必要があります。
また、透明や、色を付けることが特殊な効果を生む場合、透明なのか、色を付けるのか、蛍光色か等も書く必要があります。
これは、本体の部品についても言えます。その明細書を見たら実際にその製品を作れ、明細書に記載の効果を発揮する必要がありますから。
また、特殊な職人用語等は、標準的な用語に置き換え、略号などは正式名称と定義をきちんと書いておく必要があります。もちろん、辞書を調べれば簡単に一義的に意味が決まる場合は技術常識ですから問題ないのですが、定義が複数あるような場合にはどちらの定義かを明確に書いてないと後で問題になる場合もあり得ます。
また、海外出願を予定している場合には、できるだけ主語を書くか、受動態で書く方が翻訳がやりやすくなるので、主語を省略せずに書くのがよいです。また、長い複文にすると、英訳に苦労するので短めの文章にする方が望ましいです。
当所の場合、軽く先行特許調査をして参考になりそうな特許出願明細書があればそれを送って参考に記載してもらうサービスもやっています。類似の明細書の実施例を見ればイメージしやすいですから。
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