特許出願費用の相場
この記事は約 10 分で読めます。 5,571 Views
最近の弁理士の急増と、特許出願件数の減少、リーマンショック、東日本大震災、円高による企業の海外進出等で特許出願費用を安くダンピングする特許事務所も出てきています。
特許出願件数は、年間40万件以上あったのが、最近では28万件程度まで約3割減っています。それに対して弁理士数は約3倍近くに増えていますから、独立しても売上が足りずに廃業する弁理士も出ているようです。
一方で、特許出願1件最低60万円、通常80万円以上の料金を請求する特許事務所も存在します。
ですから、特許出願の(標準的な)相場というものはない、と考えた方がよいと思います。これは海外の事務所ではもっと格差が大きく、米国では1出願60万円~300万円位の開きがあります。
日本でも、安いところは10万以下~高いところは80万円以上で、事務所によって8倍以上の開きがあります。しかし、日本の多くの事務所は20万円~40万円程度と思われます(通常程度の難易度で、通常程度の図表数、20~30ページ程度の場合)。
何でもそうですが、一般には高額の方が明細書の品質がいいことが多いと思われています。米国の特許法律事務所では、その傾向がありますが、日本では、値段と明細書の質は必ずしも比例していない印象です。
単に高いだけでコピーペーストで明細書を作る大手事務所もあれば、非常に良心的な値段で日本でも最高レベルの明細書を作成し、高いレベルで拒絶理由に対応し、特許登録率の高い事務所も現実に存在します。
そういう意味では、特許出願の料金はその事務所の所長の考え方でいくらでも幅がある、ということです。また、弁理士の腕も様々で、同じ事務所内であっても、ある弁理士なら特許査定にできますが、他の弁理士では拒絶査定になってしまう、という場合も現実に起こります。
長い伝統のある名門事務所でも、ある女性弁理士だけがうまく特許にできる案件がある、とそこの幹部弁理士に聞いたことがあります。おそらく、反論のわずかな表現の違いで特許にできるのでしょう。もちろん、事務所が異なれば、腕の差はさらに広がる可能性もあります。
その腕の差は金銭にすれば、数億円以上の損失になる場合も現実にあり得ます。特許が登録され、他社がその事業分野に参入できなくなるのと、特許が拒絶され、他社が自由に参入できるのとでは売上げ、利益とも大きく変わります。特許が拒絶されれば、大手の資本力、マーケット力に負けたり、価格勝負になり、あまり儲からないビジネスになる場合もあります。
ですから、まずは品質が高い事務所を選択するのが最も重要で、次に料金がリーゾナブル、という順序で特許事務所を選択するのがよいと思われます。
また、20万程度で出願するところは、電気関係等大量に出願している企業を相手にする場合です。個人で非常に手間がかかり、何度も明細書を書き直したり、実施例を追加した場合は、通常の倍の料金、つまり1つの出願あたり60万円以上になることもあり得ます。
このあたりは最初は標準的な手間と時間を想定して料金を説明します。しかし、発明者が途中で気が変わったり(発明の方向性が変わったり)、追加のアイデアを言ってきたりすると、明細書の全体構成から再度検討が必要になり、2倍程度手間がかかる場合もあります。その場合には、その分の料金をいただかないと事務所としては実質赤字になってしまいますから請求せざるを得ません。
そうすると、お客様によっては、最初に言っていたのと違う、とお怒りになられる場合もあるという話をよく聞きます。一般の商品のように規格が決まっていて、原価も定価も利益率も変わらない商品であれば最初に料金を確定できるのですが、特許明細書については、手間のかかり具合により、料金が変動するのは止むを得ないと思われます。
そういう意味では、最初にかける時間を何時間、料金はいくら、と確定しておいてもいいのですが、そうすると、逆に、もう少し時間をかければすごくいい明細書になるのに、時間切れでもう一つの内容の明細書のまま出願してしまった、というケースも起こりえます。
タイムチャージ制にして、途中でかかった時間を報告し、ある一定料金を超えそうなら連絡する、というやり方も合理的な気もします。
特許出願費用はいわば弁理士の労働時間に対する対価のようなもので、発明がわかりやすく、明確で、弁理士が短時間で書ける場合は安くでき、弁理士が非常に長い時間をかけて発明を理解して、請求項の切り口にも通常以上のノウハウを使う必要がある場合は高くなるのが一般的です。
なので、弁理士に依頼する場合は、できれば発明が完成し、このような事業をするので、こういう権利を取りたい、といったことを確定させた上で相談する方が安上がりになります。
ただし、間違った方向性に基づいて発展させると逆に面倒なことになり得ます。明らかに特許性がないのにそれをどんどん発展させて発明を完成させた場合、最初に相談するのに比べて傷が深くなってしまいます。
例えば、現在売られていないから、この発明は新規性、進歩性がある、という前提で発明を発展させてから持って来られる方はあとを絶ちません。しかし、それは、現在単に売られていないだけで、以前発売したけど売れなくて製造中止にしたという製品はごまんとあります。
商品を発売してヒット商品になる確率はセンミツ、つまり、0.3%と言われる位低いです。残りの99.7%の商品は発売しても売れなくて製造中止になっています。それを考えたら、現在売られていなくても、過去に開発したけど発売しなかったり、販売しても売れ行きが悪いので製造中止にした製品がいかに多いかわかるはずです。現在売られている製品の後ろには、1製品につき、300もの売られていないけど開発されている製品がある、と考えて先行文献調査をすべきです。
ですから、「現在売られていないから新しいはず」というのは、初心者が間違いやすい点ですので注意が必要です。先行文献を調査しないと新しいかどうかは分かりません。現在売られていないが、特許出願が山のようにある発明も多くあります。
実際、発明者が持ってきた発明について軽く調査しただけで、全く同じ発明を記載した先行文献が大量に見つかったこともあります。そういう意味では、特許出願の経験少ない方、特に初めての方は、特許事務所などに先行文献調査を依頼されることをお勧めします。
特許の経験が少ない方は、早めに弁理士に相談し、軌道を修正する方がよいです。
ただ、今こういうことをしているが、この中から発明を見つけ出して権利化して欲しい、という場合は、そのヒアリングの時間もかなり長く拘束されるし、その中から発明を見つけ出して特許明細書案を作成すると、それだけ手間がかかり費用も高くなります。
さらに、「あ、そういえばこういうデータもありました」と言って新たなデータを出してきて追加記載や請求項の書き直しになる場合もあります。そうなると、弁理士としては2度手間となり、費用も高額にしなければ他のクライアントとのバランス上つり合いが取れません。明細書を何通も作成しているようなものだからです。
そういう意味で個人のお客さんは手間がかかり、何度も請求項を書き直し、質問も多いので、本当は60万円以上頂きたいのですが、現実にはそれほど金銭的に余裕のある人は少数で、赤字に近い状態で依頼を受ける場合もあります。中には、生活保護を受けているのに特許出願や実用新案登録出願を依頼してこられる方もおられます。特許で一発逆転を狙っているような感じです。
また、大手企業でも知財部予算が減ったために弁理士事務所に値引き交渉をしてくる場合もあります。これは大手に限らず、中小企業でもそういう値引き交渉はあり得ますが。
さらに、非常に難しい案件だけを、通常よりも安い値段でやってくれないか?と言ってくる会社もあります。これだと、コストパフォーマンス的に完全に合わないので、特許事務所としては、断る場合もあり得ます。
他の案件よりも非常に難しい、ほとんど無理な注文をつけてくる場合に、他のお客様よりも安くする、というのは他のお客様からみれば、えこひいきして異常な値引きをしているようなものです。値引き交渉をされるにしても限度があり、これ以上安くすると経営が成り立たなくなる、という場合はお断りするケースもあり得ます。
さらに相見積を取ってできるだけ安価な事務所を探そうとしている人もいます。
それはその人や会社の方針だから仕方がないですが、安かろう、悪かろうの品質にならないように特許事務所や弁理士を選ばないと、優秀な弁理士であれば権利化できるものを、安いという基準で弁理士を選んだ結果、使えない権利しか取れないか、簡単に拒絶されてしまう場合もあり得ます。
もちろん、昔から伝統があって、優秀な弁理士が大勢いる名門特許事務所が若干安くするのは企業や個人にとって歓迎すべきでしょうが、いわゆる即独、つまり、あまり経験を積まずに弁理士試験合格後すぐに独立する弁理士もいます。
そういうあまり経験豊富でない弁理士が非常に安価な値段設定で特許出願しているのを見つけて値段だけで依頼先を決めるのは、発明者(出願人)にとっては、せっかくのいい発明が権利化できなかったり、権利化できても非常に狭い権利になるというリスクがあります。
これは商取引でも常識でしょう。値段が安いのにはそれなりの理由があり、高額でも依頼が絶えない事務所はやはりそれだけの仕事をしていると考えた方がよいでしょう。
例えば、特許がしっかりしていれば100億円儲かるところを、明細書の出来が悪いためにあっさり回避されて1円ももらえないどころか、自社事業にライバルが参入して自社事業の売上が下がるようなことも現実に起きています。
そういう意味では特許出願はしっかりした、質の高い明細書を書く特許事務所に依頼するのが結局は安上がりになります。
特にベンチャー企業は特許が命なので、その分野の腕のいい弁理士を選んで、最高品質の特許を出願すべきでしょう。それにより、ベンチャーファンドから数億~数百億円の資金調達ができるかどうかが決まるからです。
億の出資をしてもらうのに、特許出願費用をケチったために、事業を守れない狭い権利しか取れない特許を出願したのでは、出願する意味が薄れます。
そういう意味では、特許申請のような、弁理士の腕により雲泥の差が出るサービスについては、値段ではなく、専門分野とその弁理士が頭がいいと感じられるか?を考えて選ぶのがよいと思います。
つまり、自分のいうことをきちんと理解してくれ、的確に発明を理解し、本質を捉え、事業戦略も理解した上で、出願戦略を立て、外国出願の経験も豊富で、外国でも難しい拒絶理由に対応して特許化できる弁理士を選ぶべきでしょう。
それとは逆に、メーカーと製品名が同じであれば、どこで買っても品質が同じカップラーメンやチョコレート等の日用品であれば、1円でも安いのを買えばよいです。
しかし、特許出願明細書はその弁理士の過去の全ての知識、知恵、経験、ノウハウの塊です。発明の本質を的確に捉え、戦略思考のできる弁理士もいれば、ただ、経験からのみ明細書の形にする弁理士や技術者もいたりします。
博士号を持っていたり、大学教授だったり、研究開発歴が長かったり、知的財産業務歴が10年、20年と長い弁理士もいれば、大学の学部卒で、特許事務所に入って数年で独立する弁理士もいます。
だから特許事務所を選ぶ場合は、値段で選ぶのではなく、所属弁理士の経歴を見た上で自社の事業を最も適切に守れると思える弁理士のいる特許事務所に依頼すべきでしょう。
ちなみに大平国際特許事務所では、元大学院大学教授、博士号取得、東京大学卒業、元大企業知財部にも在籍し、大学知財部、TLO、農林水産省知財評価委員、内閣府SIP知財委員なども含め、知財経験15年以上、研究開発歴20年以上の弁理士がいます。
そして、元在籍した大企業ではグロービス・マネジメント・スクールで経営戦略、マーケティング戦略を学び、さらに独立後もジェイ・エイブラハムのマーケティング戦略をマスターしているので、売上を上げるコンサルティング、コーチングも可能です。さらに、海外企業へのライセンス経験もあるので、契約交渉も得意です。いわば、知財だけでなく、トータルに売上アップのアドバイスもできる弁理士とも言えます。
この経歴の弁理士に特許出願を依頼したいと思えば、以下か、左側のメニューからお気軽にお問い合わせ下さい。所長弁理士の大平和幸が対応します。