中国への特許出願と拒絶理由と専利審査指南の改正案

中国特許庁からの特許出願に対する拒絶理由には、不思議な論理があります。

例えば、請求項1に拒絶理由があれば、その従属項も全部その拒絶理由が適用される、という論理です。

通常は従属項は限定をつけて権利範囲を狭めているので、新規性、進歩性が認められるはずなのに、請求項1が進歩性がないから、それに従属する請求項2、3・・・も進歩性が無い、という論理で審査官も審判官も拒絶理由を出して来ます。

その逆が正しいのは自明です。例えば、請求項1に進歩性があるから、それに従属する請求項は当然に進歩性を有する、という論理は日本でも通常使われています。

しかし、請求項1に拒絶理由(例えば進歩性違反)があったとしても、その従属項は範囲を狭めているのだから、上位概念の引用文献が当然に先行例になる、というのは論理的に考えてもおかしいです。

特許請求の範囲を減縮すれば、それだけ先行文献のひっかかる部分は少なくなるので、従属項の一番末端はかなり先行文献とは違うはずです。

それにも関らず、なぜか中国では、請求項1に進歩性がないからその従属項に進歩性がない、という論理の拒絶理由がしょっちゅう来ます。これは誰かが一度最高裁判所(人民法院)まで行ってひっくり返す判例を出してもらいたいものです。

おそらくこれらは、審査実務の中国特許庁の内部テキスト(審査操作規定)にそういう論理が書かれているのではないかと推測します。

実施可能要件についても変で、医薬の場合は、出願時に用途までデータを書いておかなければ実施可能要件を満たさない、というのが2010年当時の審査基準だったようです。

審査指南の実施可能要件に違反する場合として5つの事例がありますが、そのうちの5.が医薬の新規化合物などに適用されます。

5.明細書に記載される技術方案は実験の結果による裏付けがなければ成立できないが、必要な試験データが明細書に記載されていない場合

そして、「審査指南」2010年版には、以下のように記載されていました。

明細書は実施可能要件を満たすかどうかの判断は、出願当初の明細書及び特許請求の範囲に記載の内容を基準とする。出願日以降に提出した実施例や実験データについて、審査官は考慮しない。

この実務により、出願明細書に化合物の用途のデータが無ければ、実施可能要件違反で拒絶されていました。この点は日米欧韓国などと異なる実務です

この点が2016年に出された改定審査指南案では、出願後に出された効果のデータも考慮しなければならない、とされていますから、この専利審査指南の改正案どおりに改正されれば、出願日以降に提出した実験データについても審査官は考慮しなければならなくなります。

とはいえ、それは当業者が、特許出願の公開内容に基づいて得られるものでなければなりません(専利審査指南改正案)。これから考えれば、明細書に○○の効果がある、その効果は△△の方法により確認することができる、と書いておけば良さそうに個人的には思います。

現状では、明細書に、「化合物Aには○○の効果がある」とのみ記載されていて、出願後に○○の効果を実証するデータを出して提出した場合に実施可能要件を満たすかは、現在のところ論争があるそうです。

だとすれば、医薬等の新規化合物の特許を中国に出願する際には、用途のデータを添付する必要があると考えるべきでしょう。しかし、通常の医薬の出願であれば、第1用途発明は記載するはずなので、問題になるケースは少ないと考えられます。

それとともに、中国では技術常識(公知常識)、という拒絶理由も来ます。多くの場合は、引用文献と組み合わせてこの拒絶理由が来ます。それがかなり独断と偏見のような気がしています。中には、本願の背景技術から取ってきていることもあるのですが、完全に誤解しているようなものまであります。

公知常識の拒絶理由通知に対しては、以下の主張などが考えられます。

1 先行文献には本願発明の発明特定事項のすべては含まれておらず、(引用文献と技術常識を組み合わせても)公知常識とは言えない

2 公知常識である証拠を提出するよう審査官、審判官に請求する

3 公知常識と引用文献を組み合わせる動機がない

4 公知常識は審査官の誤解に基づくもので、そのような公知常識は存在しない

中国の審査は昔に比べてまともになった、とは言われますが、まだ実体審査の論理は先進国並みではないように思われます。そのせいかも知れませんが、中国では、拒絶理由が7、8回も来ることがあるようです。

最近では4回以上になった場合には合議で議論することになるようです。

しかし、私の得ている情報からは、今後はだんだんと審査もまともになっていくと考えられます。中国特許庁に採用される審査官は、一流大学卒の修士、博士で、審査官トレーニングも4ヶ月、その後シニア審査官について6ヶ月のトレーニングを受け、1年後から審査を自力で始め、その後もシニア審査官の指導を受けるようです。

と、言っても、そのシニア審査官の論理がおかしければ、いくら優秀な人が審査官になっても変わらないかも知れませんが。

それもそうなのですが、弁護士も10万人以上いるわけで、今後もどんどん増え、訴訟社会になっていくことも想像されます。そうなれば、中国でも特許権が正当に評価され、先進国同様に保護されるようになるのではないでしょうか?

実際、外国企業が北京で特許侵害訴訟を提起した場合、100%外国企業が勝訴しているそうです。ただし、賠償額は予想外に低く、費用と労力がかかるわりには得られるのは名誉だけ、という噂もありますが。

大平国際特許事務所では中国への特許、商標出願も承っております。以下からお気軽にご相談下さい。

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特許出願の代理人の中途受任

自社出願又は他の代理人が出願した特許出願を代理人が辞任したりして私の事務所に中間処理(拒絶理由対応)から依頼してくる場合があります。

通常は代理人を変更する場合、特許管理システムへの入力作業や新たにファイルを作る必要がありますので、変更に伴う費用を取る事務所もあります。

その額は事務所によって様々で0から十数万円まで幅があると思われます。

また、移管する側も中間処理の費用や、登録成功報酬が受け取れなくなるので、移管費用を請求する場合もあると思います。

一般に自社出願を特許事務所が中途受任するケースだと特許になる率(特許査定率)が通常よりも低くなります。元々の明細書のできが良くないと、後から記載を追加はできないので、止むを得ない面はあります。

最初の特許出願明細書がしっかり書かれていないと、中途受任した代理人弁理士がいくら腕が良くても限界があります。補正ができなかったり、必要な情報が記載されてなくて記載要件違反の拒絶理由がきた場合は非常に難しくなります。

どうせ特許出願にお金を使うのであれば、最初から優秀な弁理士のいる特許事務所に依頼して強くて広い権利を取るようにすべきです。

大平国際特許事務所では、移管費用をいただいておりませんので、現在の代理人弁理士や特許事務所から変更されたい場合は、お気軽にご相談下さい。

他所の事務所では拒絶査定になるような難しい案件でも、大平国際特許事務所であれば、特許登録できる場合がございます。実際、ベテランの弁理士や知財部員などから、「えっ、あれが特許になったの?」と驚かれることがよくあります。

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特許事務所の中には、拒絶理由に対応しても無理そう、と思って、そういう場合は、放置を勧め、それは計算外にして登録率90%等と宣伝しているところもあるようです。

しかしながら、そうした対応をしている時点で能力不足であることは明らかです。

大平国際特許事務所では、明らかにズバリの引例がない場合は、何とかして特許にするようにあらゆる知恵を絞ります。

研究者歴20年(1982~2002)、弁理士歴15年(2002~2017)と、研究者歴が長く、東京大学博士で元奈良先端科学技術大学院大学特任教授で、弁理士実務経験も十分長い弁理士が責任を持って御社の特許出願を特許登録できるようにあらゆる努力を致します。

ぜひ、大平国際特許事務所のサイエンスレベルでも、法律レベルでも、極めて高度な拒絶理由対応をご体験下さることをお勧めいたします。

どうしても潰したい特許がある場合

事業戦略上、確実に目の上のたんこぶとなって、事業が非常にやりにくくなる特許(出願)が見つかることがあります。

その場合、ライセンス交渉できる相手であればいいですが、事業ドメインが真正面からぶつかるライバル企業の場合は、ライセンスしてくれる可能性は低いです。

とすれば、その特許を異議申立や無効審判で潰す必要があります。

その前段階だと、特許出願の段階で情報提供して、新規性、進歩性が無いことを審査官に理解してもらいます。

それが成功すると、相手の特許出願の特許請求の範囲が減縮され、自社事業の障害でなくなるようにできる場合もあります。

もし、情報提供しても自社の事業の邪魔になる特許が成立した場合は、登録の日から6ヶ月以内であれば特許異議の申立が可能です。この異議申立は当事者対立構造ではなく、申立後は出願人と特許庁との間でやり取りされるので、ダミーの申立人を立てて異議申立をすることが容易です。また費用も無効審判に比べて安いので、登録された特許を潰す場合には無効審判よりも使い勝手がよいです。

異議申立しても特許が維持された場合は、通常は異議申立の期間は過ぎているので新たな異議申立はできないのが普通です。その場合は無効審判を請求することができます。

情報提供、異議申立、無効審判の根拠となる先行文献等は、本気で探せばかなりの確率で見つかります。

侵害訴訟で、原告(特許権者)優位に進んでいても、途中で無効理由が見つかって、攻守ところを変えることもあります。すると、攻撃していた方が防戦一方になってしまい、最悪、特許が無効になってしまうこともあり得ます。そしたら何のために特許侵害訴訟を提起したのかわからなくなってしまいます。

2010年頃は無効になる確率が50%位だったので、訴訟をしかける側もギャンブルのような面があり、自分からは訴訟を提起しない、という方針を公言する企業もありました。

今は無効になる確率は下がり、20~30%の間程度になっています。これは最近の審査の質が上がり、簡単に無効にはできない出願が特許されるようになったから、のようです。

無効になる確率が低くなれば、侵害訴訟を提起するのもやりやすくなるでしょう。

特許は持っているだけでもある程度の抑止力はありますが、それでも侵害する会社は出てきます。侵害者に対して何もしないのであれば、特許を持っている意味はありません。特許は権利行使して初めて意味を持ちます。

そして、逆に侵害しているとして訴えられた側としては、無効資料を探すことに全力をかけることになります。

審査官が見つけられない拒絶理由、無効理由を見つけるのも大平国際特許事務所は得意です。なぜなら、研究者として、20年以上の研究者歴と、15年以上の実務経験、そのうち、企業知財部で調査を集中的にやっていた時期がありますから、並みの調査会社よりもヒット率は高いと思います。どうしても潰したい特許がある場合は、ぜひ当所にお問い合わせ下さい。

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発明ヒアリングとTRIZ、USITで特許出願数を増やす方法

研究補助金の研究評価では、研究費の割に特許出願件数が少ない、という問題を指摘される場合があります。また、会社でも1人あたりの出願件数のノルマが決まっていて、発明数を増やす必要がある場合もあります。

発明を増やしたい場合には、まずは、発明者のやる気(モチベーション)を上げるとともに、発明、発想法(発明のやり方)を教えるのがよいと思います。もちろん、定石に則って発明ができる場合だけでなく、全くの試行錯誤の繰り返しから思いもよらない発明が出る場合もありますが、やはり、最低限の発明、アイデア発想法の定石は知っておくべきと思います。発明者はオズボーンやTRIZ、USITの基本程度は知っておくべきでしょう。

それに加えて、エジソンやテスラ、グーグルなどのアイデアの出し方や発明の仕方を研究するのもよいと思います。イノベーションのジレンマで有名なクリステンセンの「イノベーションのDNA」という本によると、イノベーションの能力は生まれつきではなく、後天的に育成できる、と結論づけています。さらにその能力の特徴と開発手法を具体的に掘り下げて記載しています。

ですから、企業の研究開発部員であまり発明が出ない人はこのイノベーションのDNAの手法を試してみるのがよいと思います。他には、中松義郎博士の、「ケチョウスピゾケピケアイキ」というやり方もありますし、エジソンやテスラの発明手法もありますので、ご興味のある方は研究されるとよいと思います。

私の発明コーチング&コンサルティングを受けられれば、これらに基づいたコーチング&コンサルティングを行いますので、より、発明が出やすくなると思われます。

このようにして、研究開発担当者の発明へのモチベーションを高めたら、次は、知財(特許)部員による発明ヒアリングの回数を増やすといいと思います。話を聞いているうちにここをこうすれば特許になる、というのが明確になる場合もあります。

そして、研究員が銅の発明をしそうなら、どうすれば、それを金や銀、プラチナの発明にできるか、とアドバイスするのも知財部員や発明コーチの役割です。それにより発明により高い価値を付けることができます。

とはいえ、知財部員も戦略立案や契約書チェック、ライセンス交渉、知財訴訟など、他の業務にも忙しいでしょうから、時間がない人も多いと思います。そういう場合には、外部の弁理士にヒアリングを依頼するのもよいと思います。

弁理士には守秘義務がありますし、発明を特許にする専門家ですから、普通に考えたら特許にならないだろうと思われる発明でも、特許にできる方法、ノウハウを知っている場合があります。

さらに、研究者も知財部員もこの発明は実用化できないだろう、と思う発明でも、弁理士は様々な分野を扱っているので、この分野に使えば、非常に画期的な発明になる、この発明と組み合わせれば大きな市場が産まれる、などとアドバイスできる場合もあり得ます。

そういう意味で、知財部員が忙しくて発明ヒアリングまで手が回らない場合は、研究所近くの弁理士に発明ヒアリングを依頼するのもいいと思います。大平国際特許事務所でも、関東、関西地域では、発明ヒアリングのサービスを行っておりますので、以下からお気軽にご相談下さい。

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それ以外のよくある発明発掘方法としては、企業であれば、毎月の月例報告会や、研究ミーティングのようなものがあれば、そこで発明発掘をすればよいでしょう。その会議の後に懇親会でもあれば、さらに生の情報が得られます。もうすぐ面白いデータが出そうだ、という情報があれば、それをウォッチしておけば特許出願に繋がる可能性も出てきます。

大学なら、博士や修士の論文発表会や審査会に出るのも有効です。ただし、この場合は、秘密状態で発表するようにしないと、新規性喪失の例外規定を使うことになるので、欧州では権利化できなくなります。通常は、こうした発表会は守秘義務のない学生が聞くので、新規性を喪失してしまうという問題があります。ですので、可能であれば、発表会の前にプログラムなどでタイトルをチェックし、特許になりそうな発表には事前に事情を聞くのがよいのですが、量が多いとそれも難しいです。

大学でもっと早く情報をつかむには、研究室毎の報告会や成果発表セミナーのようなものに参加するのがよいです。大体3ヶ月~半年おきにそういう報告会をする研究室が多いです。一度聞いておけば、そんなに劇的に早く進むことは少ないので、1~数年はそのテーマをフォローできたりします。

さらに、大学の場合は、何もないときでもときどき先生の研究室にお邪魔して、何か面白い話はないですか?と聞くと最新の成果を教えてくれることもあります。そしてそれがいい特許になる場合もあり得ます。

また、大学の場合は、先生と話しているうちに、研究室が最も力を入れているメイン・テーマではないところに面白い(売れる)発明がある場合もよくあります。大学の教授、准教授らは、基礎研究が好きな方も多いですから、メインは基礎研究ですが、どうでもいいというか、軽く続けているテーマが応用に結びつくこともありますから。

メインのお話を聞いたあと雑談をしていて最後の5分で聞いた話がビジネスに結びついた、というケースもあります。

研究者の先生は、そんなの特許になるはずない、と信じていて、知財部との話で出さない場合があり、それを聞き出して特許にできれば強い特許になる場合もあり得ます。

また、1件で出願できる発明を戦略的に分けて出願すればその分特許出願数は増えます。微妙に異なる発明を2つ以上に分けて特許出願するのは企業ではよくやります。その場合は、海外に出願する場合、自己衝突(self collision)を避けるように同日出願するのが一般的です。

もちろん、ただ単に出願数を増やすだけではコストが増えるだけですから、利益を生む、実のある発明を発掘するようにすべきでしょう。

また、発掘した発明をTRIZで展開していくと、40のフレームワークがあるので、それを使って、置換したり、入れ子にしたり、いろいろなパターンを使って発明のバリエーションを考えることができます。

それをやっていると、しばしば、この発明は2つ以上の特許出願に分けた方がいい、となる場合があります。つまり、1つの発明を展開していくことで2つ以上の発明にすることはTRIZを使えば比較的容易にできます。というよりも、必然的に増えてしまうので、予算のない場合は逆に出願費用がかさむという問題が生じ得ます。

そういう意味では、発明を増やすのにはTRIZが有効です。

大平国際特許事務所では、発明者の中に眠っている発明を引き出して特許化する発明コーチングやTRIZ、USITも得意としております。ご興味のある方はお気軽にお問い合わせ下さい。

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経営戦略と知財戦略で競争優位性を獲得し、知財部をプロフィットセンター化するには

知財部をプロフィットセンター化するにはどうすればよいか?というのは間接部門である知財部(特許部)の永遠のテーマのように思います。

知財部だけがいくら最強であっても、研究開発部門から上がってくる発明がしょぼくて、あまり特許で守る価値がないものであれば、おそらく、売上げも利益も上がらないでしょう(製品は大したことなくてもマーケティングや広告で売れる場合はあるかも知れませんが)。

あるいは、マーケティング部門や営業部門が弱ければ、いくら素晴らしい製品を開発しても売れない、ということにもなりかねません。

会社で利益をあげるには、結局のところ、売上、利益をあげる必要があります。それが会社の存在目的の一つでもあります。そこに知財部がどう関われるか、という問題だと思われます。

理想的には、最強の研究開発部隊、最強のマーケティング部隊、最強のセールス部隊、最強の特許(知財)部隊の全てが揃えば、会社の売上、利益も最大化できるでしょう。

そういう会社の知財部門であれば、製品を有効に守る特許網(特許壁)を作ることで、製品を独占販売して利益をあげることができるので、プロフィットセンターの役割を果たせると思います。あるいは莫大なライセンス料を得ることも可能でしょう。

しかし、研究開発があまり活発でなく、画期的な製品が出ない中小企業等の場合は、知財部がいくらいい特許を取ったとしても、売上も利益もそれほど上がらないこともあり得ます。売れなければ利益は出ないわけですから。だとすれば、知財部はコストセンターにならざるを得ないとも言えます。

とはいえ、知財部が研究開発部門に対して、もっといい(売れる)発明をしろ、というのも現実的には難しいと思います。研究で使い物にならないから知財部に飛ばされた、という立場の元研究者の知財部員だと特に言いにくいのではないでしょうか?

それに、いい発明=売れる製品とは限りません。ヒット商品を開発しろ、というのがあえて言うとすればありますが、そんなことができるなら誰も苦労はしません。それにヒット商品のコンセプトはどちらかと言えばマーケティング部門、商品企画部の役割ではないかと思います。

それを考えると、知財部がプロフィットセンター化するかどうかは、ヒット商品の発明品が出るかどうかにかかっているようにも思えます。最も典型的なのは、昔のビクターのVHSの特許のような発明をして年間数百億円のライセンス料をもらえるようにすることでしょう。それであれば、知財部がプロフィットセンターであることは誰の目にも明らかです。

しかし、そのような特許発明は会社の中でも歴史的な特許で、滅多に出て来るものではないでしょう(それに巨額のライセンス収入を得た会社はその後傾くことも多いです)。

ただし、製薬企業の場合はブロックバスターが数年ごとに出るから知財部が非常に重要な部署になっています。特許制度が最も有効に機能しているのが製薬業界とも言われます。

つまり、特許で年間数千億円以上の売上を独占したり、巨額のライセンス料を得られれば、知財部もプロフィットセンターになれるように思います。とはいえ、そのような確率は宝くじを引くようなものかも知れません。

知財部としては、そういうホームラン特許が出ることを期待し、ホームラン特許が出る環境作りをするのも一つのやり方でしょう。もしかしたら、ものすごいホームラン特許が眠っているかも知れません。それを掘り当てれば知財部も一躍プロフィットセンターになり得ます。

その一方で、ホームラン特許が出なくても売上を上げる活動はそれ外にもあり、知財を使ってお金を稼ぐことを考えればいいのかも知れません。

侵害者に対して警告してライセンス料を得たり、訴訟をして勝てば損害賠償金が入ったり、その後もライセンス料が入ります。これらはキャッシュですから、会社のキャッシュフローを改善できる、という面があります。しかも不労収入になります。

最近、日本では特許訴訟が減っていますが、権利行使しない特許は持つ意味がない、という説もあります。単に特許を持っているだけで、他社の侵害を放置するなら権利を持つ意味はないでしょう。それこそコストにしかなりません。

そういう意味で、知財部をプロフィットセンターにするためには、権利行使をするのが一つのやり方ではないかと思います。

他にも、例えば、会社の廃棄物を他社が特許発明に利用できるような場合には、会社に有利な条件で買い取らせる契約をうまくやれれば、会社のコスト削減とプロフィット増大に関われるでしょう。

こうした契約で、会社の利益に貢献できる場合もあると思われます。それには、会社の経営戦略や事業戦略を熟知し、どこにビジネスチャンスがあるかを見極めることでしょう。実際には事業部の方がビジネスチャンスを把握しているでしょうから、そういう情報を得るのも有効です。

経営戦略や事業戦略を実現するために、知財を有効に活用することができます。というよりも、知財戦略は独立して存在するものではなく、事業戦略や経営戦略と整合している必要があります。もっといえば、知財戦略が事業戦略、経営戦略と一体不可分に融合している状態が理想で、さらに、知財でその会社の未来を創り出すようなことができれば(ビジョナリーレベル)知財としては最強の企業と言えると思います。。

しかしながら、そういうことができている会社は企業の中でも一部だと思われます。

経営戦略とは、通常は、他社の自社事業分野への参入を押さえて、市場を独り占めして利益を独占したい、という、競争優位を獲得するものと考えられています。最近は、価値を高めることが戦略、という説もあり、私は個人的にはこちらが気に入っています。価値を高めることにより競争優位を獲得できますから。

市場を独占して利益を最大化したいとすれば、独占する戦略が必要になります。独占する戦略としては、例えば、特殊な原料で、一部の地域でしか取れないものを使っているのであれば、原料を買い占めれば、市場を独占することも可能でしょう。その国でしか取れない植物とかであれば、その国と独占供給契約を締結すればよいです。これにはかなりの資金力や政治力が必要になると思われます。

それ以外の独占の手段としては、販売力や営業力で市場シェアを最大化するという考えもあるでしょうが、それだけでは限界があると思います。その場合には、どうしても知財が必須と考えます。強くて広い特許権で市場をカバーできれば他社の参入を押さえられ、自社の競争優位を獲得できます。

少なくとも、自社製品については、ピクチャークレームでもよいので製品に特許を貼り付けることが必須と考えます。

ただ、業界や製品によっては、必ずしも広い基本特許が取得できる状況でない場合もあり得ます。

その業界では昔から当たり前に使われてきた技術で、どの会社も同じような製品を発売していたり、既に他社特許が大量に出願されていていまさら広い特許は取れない、等の場合です。焼酎のような歴史の長い飲料の場合は、昔から様々な製品が出されていて、普通に思い付くような製品はほとんど開発し尽くされています。

あるいは、青汁などは大量に製品が出ていて、10種類以上もの成分を含んでいる製品もあり、いまさら広い特許は取れない、と思われます。

そのような場合でもやり方がないわけではありません。何らかの構成要件(部品や成分など)を追加したり、製造方法を改良したりすれば少なくとも、周辺特許、利用特許は取れる可能性があります。

あるいは既に特許出願済みであっても、その後の分割出願等である程度の権利を成立させて他社への参入障壁にすることは可能です。

また、既に特許が出ていても、新しい用途を開発し、自社だけが、その用途を表示できるようにすることで競争優位を獲得することも可能です。これは2016年4月から食品の用途特許が取れるようになったので、お勧めです。また、機能性表示制度に特許を絡めることで、自社でや行った臨床試験のデータを勝手に他社に使わせないことも可能です。

この機能性表示と特許をうまく組み合わせれば、食品の用途発明で市場を独占することが可能ですので、この戦略は今後お勧めです。

つまり、知財戦略をうまく駆使することで、それまでは不可能だったマーケットでの優位性を獲得することが可能になります。

そのための秘訣はいろいろありますが、基本は、強くて広い特許権を取得することでs。それが可能にできるのは、特許庁と常時やり取りをし、ぎりぎりのところで特許を成立させるノウハウを蓄積している特許事務所(弁理士)です。大平国際特許事務所でも、通常は特許にならないと思われる難しい拒絶理由を解消して特許化したものが多数あります。

教科書(基本書など)には書いていないノウハウが当所にはたくさんあります。それが企業にとっても競争優位性を獲得する鍵となることがあります。それはとりもなおさず、通常では特許が取れないものを特許化するノウハウですからこそ、参入障壁を築けるわけです。

企業知財部員でもそれができる優秀な部員がいれば、拒絶理由をかいくぐって、ギリギリのところで特許化できるかも知れません。しかし、それができるのは、元々優秀な研究者・技術者で博士号を持ち、研究歴が長く、その後知財部に異動して法律知識や交渉能力を磨き、10年間以上経験を積んでようやくそのレベルに到達できるかどうか、といったところではないかと考えます。そういう優秀な切れ者の知財部員がいない場合は、特許事務所を有効に活用すべきと考えます。

最近企業知財部にも弁理士が増えていますが、最終的には競争優位性を獲得できる知財戦略をどう経営戦略と融合させるか、が企業知財部をプロフィットセンター化するのに重要なのはいうまでもありません。当所ではそのような戦略コンサルティングも得意としておりますのでお問い合わせはお気軽にどうぞ。

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商標マフィアとピコ太郎のPPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)

ピコ太郎のPPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)が、ピコ太郎やエイベックスとは全く関係のない、ベストライセンス社によって商標出願され、話題になっています。1月26日放送の『とくダネ!』(フジテレビ系)でベストライセンス社の上田育弘氏の取材が放映されたそうです。

ベストライセンス社の代表の上田育弘氏は元弁理士で、ベストライセンス社と上田育弘氏の両方名前で出願人として年間合計約1万5千件の商標を出願しています。

2016年度の公開商標公報件数
1位  ベストライセンス 12474件
2位  上田育弘      2654件
3位  サンリオ       830件
4位  資生堂        591件
5位  花王         442件

商標を多数出願することで有名な花王さんの30倍以上もの商標出願をしています。

通常商標を1件出願する場合、3400+8600×区分数 の出願料がかかります。すると、1万5千件を出願した場合、全て1区分でも、15000×12000=1億8千万円の出願料金がかかります。

いくら上田氏が潤沢な資金を持っていても簡単に支払える額ではありません。

ところが、上田氏は特許庁の実務を逆手に取って出願料を支払わないで2カ月以上出願を維持し、その間に使いそうな会社に警告状を送って和解金を取ろうとしているものと思われます。これは一昨年もやっていて昨年もやっているので、おそらくこれで少しは成果が上がっているものと思われます。もし、成果もないのに続けているとすれば、特許庁や社会への嫌がらせかも知れません。

つまり、実体のない商標を大量に出願し、使用する可能性のある会社に高額で売りつけたりしていたのではないかと考えられます。これはまさに特許マフィアならぬ、商標マフィア、商標トロール(商標海賊)です。

このような行為により利益を得る人が出てくると、せっかくネーミングを有名にしても商標出願していなかったばっかりに、不当に不利益を被る人が出てくるおそれがあります。

しかしながら、法律はそんなに不公平なことは認めません。著名商標については以下の規定が商標法にはあります。

商標法第4条第1項第19号
他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)

これは、著名な商標を高額で買い取らせるような不正の目的で商標出願した場合には、登録しない、という規定です。

ですから、自社が使っている商標が著名または周知であれば、登録されませんから警告状が来ても放置しておけばよいと思われます。他にも周知商標は登録できないという規定が4条1項10号にありますし、混同を引き起こす商標も登録されません(同15号)。

この位のことは上田育弘氏も元弁理士ですから知っているはずですが、それでもやっているのは、商標法のこの規定を知らない会社をターゲットにしているのではないかと思われます。

だとすれば、情報弱者の弱みに付け込んでお金を儲けようという残念な人ですね。

それ以前に、今回の『とくダネ!』の取材料金として1時間5万円をオファーしたというから、空いた口が塞がりません。金儲けのために悪知恵を絞っている印象です。

上田氏は、テレビや新聞などから選んだ言葉を、毎日特許庁へ出願しており、多い日には1日50件ほど出願することもあるそうです。1件の出願に書類作成、商品・区分選び、電子端末操作で、20分かかるとすると、17時間、10分で出願するとしても、9時間位出願作業にかかる計算です。

上田育弘氏は、これまでに「PPAP」の他に「ゲス不倫」や「民進党」、「じぇじぇ」、「なども出願しているという。それ以外にも、日本知財学会、おさいふ決済、カケホーダイ、振動スピーカー、リニア新幹線、 読み放題 、GPS内蔵スマホ、新幹線、特許電子図書館、 スマホタブレット 、省エネ家電、ノイズキャンセル、スマホ充電車、微生物発電、無人運転、私のしごと館も出願しています。

面白いのは、商標モンスター 、IP MONSTER、 TRADEMARK MONSTERなどがあり、あんたのことやろ、という感じです。

上田氏はインターネット上でも批判されているそうで、の以下のツイートが短時間で4000リツイートされたそうです。

「とくダネでピコ太郎PPAPの商標登録のニュースやってたけどこいつ最低やな 取材料1時間5万のくだりも腹立つ胸糞 元弁理士のおっさんが自分の金儲けの為に悪知恵働かせて片っ端から商標登録してるってほんまゴミ ピコ太郎と全国の上田さんに謝れゴミ」

弁理士として恥ずかしいですね。もう弁理士会からは除名されているので、弁理士会としては処分はできないでしょうが、できれば何とかして欲しいところです。

米国でも特許マフィア(パテント・トロール)というのが数年前に流行って、成長産業になり、何社も株式上場しましたが、最近は、特許適格性で特許が無効になったり、訴状の記載要件が厳しくなったり、非実施企業(non-practicing entity)には裁判官が厳しくなったり、負けた場合に相手方の訴訟費用(弁護士費用も含む)を支払う判決が出るようになったりして(トロール企業に数億円規模の損害賠償を求める判決が出るようになった)、パテントトロールから撤退する企業も出てきているようです。

そういう意味では上田氏の商標マフィア(商標トロール)はやや時代遅れ的な感もありますが、日本ではパテント・トロールよりは商標マフィアの方がやりやすいのでしょう。

特許庁も、こういう人に対しては、補正命令をかけて、30日以内に出願料金の納付がなければ即却下するなど、一般の企業に迷惑にならないようにして欲しいものです。

警告状を受けても放置すればいいですが、もし心配でしたら、私の事務所でもご相談に応じますのでお気軽にお問い合わせ下さい。

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