中国への特許出願と拒絶理由と専利審査指南の改正案

中国特許庁からの特許出願に対する拒絶理由には、不思議な論理があります。

例えば、請求項1に拒絶理由があれば、その従属項も全部その拒絶理由が適用される、という論理です。

通常は従属項は限定をつけて権利範囲を狭めているので、新規性、進歩性が認められるはずなのに、請求項1が進歩性がないから、それに従属する請求項2、3・・・も進歩性が無い、という論理で審査官も審判官も拒絶理由を出して来ます。

その逆が正しいのは自明です。例えば、請求項1に進歩性があるから、それに従属する請求項は当然に進歩性を有する、という論理は日本でも通常使われています。

しかし、請求項1に拒絶理由(例えば進歩性違反)があったとしても、その従属項は範囲を狭めているのだから、上位概念の引用文献が当然に先行例になる、というのは論理的に考えてもおかしいです。

特許請求の範囲を減縮すれば、それだけ先行文献のひっかかる部分は少なくなるので、従属項の一番末端はかなり先行文献とは違うはずです。

それにも関らず、なぜか中国では、請求項1に進歩性がないからその従属項に進歩性がない、という論理の拒絶理由がしょっちゅう来ます。これは誰かが一度最高裁判所(人民法院)まで行ってひっくり返す判例を出してもらいたいものです。

おそらくこれらは、審査実務の中国特許庁の内部テキスト(審査操作規定)にそういう論理が書かれているのではないかと推測します。

実施可能要件についても変で、医薬の場合は、出願時に用途までデータを書いておかなければ実施可能要件を満たさない、というのが2010年当時の審査基準だったようです。

審査指南の実施可能要件に違反する場合として5つの事例がありますが、そのうちの5.が医薬の新規化合物などに適用されます。

5.明細書に記載される技術方案は実験の結果による裏付けがなければ成立できないが、必要な試験データが明細書に記載されていない場合

そして、「審査指南」2010年版には、以下のように記載されていました。

明細書は実施可能要件を満たすかどうかの判断は、出願当初の明細書及び特許請求の範囲に記載の内容を基準とする。出願日以降に提出した実施例や実験データについて、審査官は考慮しない。

この実務により、出願明細書に化合物の用途のデータが無ければ、実施可能要件違反で拒絶されていました。この点は日米欧韓国などと異なる実務です

この点が2016年に出された改定審査指南案では、出願後に出された効果のデータも考慮しなければならない、とされていますから、この専利審査指南の改正案どおりに改正されれば、出願日以降に提出した実験データについても審査官は考慮しなければならなくなります。

とはいえ、それは当業者が、特許出願の公開内容に基づいて得られるものでなければなりません(専利審査指南改正案)。これから考えれば、明細書に○○の効果がある、その効果は△△の方法により確認することができる、と書いておけば良さそうに個人的には思います。

現状では、明細書に、「化合物Aには○○の効果がある」とのみ記載されていて、出願後に○○の効果を実証するデータを出して提出した場合に実施可能要件を満たすかは、現在のところ論争があるそうです。

だとすれば、医薬等の新規化合物の特許を中国に出願する際には、用途のデータを添付する必要があると考えるべきでしょう。しかし、通常の医薬の出願であれば、第1用途発明は記載するはずなので、問題になるケースは少ないと考えられます。

それとともに、中国では技術常識(公知常識)、という拒絶理由も来ます。多くの場合は、引用文献と組み合わせてこの拒絶理由が来ます。それがかなり独断と偏見のような気がしています。中には、本願の背景技術から取ってきていることもあるのですが、完全に誤解しているようなものまであります。

公知常識の拒絶理由通知に対しては、以下の主張などが考えられます。

1 先行文献には本願発明の発明特定事項のすべては含まれておらず、(引用文献と技術常識を組み合わせても)公知常識とは言えない

2 公知常識である証拠を提出するよう審査官、審判官に請求する

3 公知常識と引用文献を組み合わせる動機がない

4 公知常識は審査官の誤解に基づくもので、そのような公知常識は存在しない

中国の審査は昔に比べてまともになった、とは言われますが、まだ実体審査の論理は先進国並みではないように思われます。そのせいかも知れませんが、中国では、拒絶理由が7、8回も来ることがあるようです。

最近では拒絶理由が4回以上になった場合には合議で議論することになるようです。それであれば、単独の審査官の判断ではないので、より妥当な拒絶理由が来るようになると思われます。

審査官の判断により拒絶査定された場合には、覆審という拒絶査定不服審判にあたるものがあります。そこでは、拒絶査定が覆る可能性は20%程度のようです(個人の意見なので正確な数字ではありません)。そして中国では覆審で査定を取り消した場合、審査に差し戻されます。その場合に特許になる確率は非常に高いそうです。

ですので、覆審で査定が取り消され、審査に差し戻された場合には、審査を継続して特許化を目指すのがよいと思います。

今後はだんだんと中国特許庁の審査もまともになっていくと考えられます。中国特許庁に採用される審査官は、一流大学卒の修士、博士で、審査官トレーニングも4ヶ月、その後シニア審査官について6ヶ月のトレーニングを受け、1年後から審査を自力で始め、その後もシニア審査官の指導を受けるようです。

と、言っても、そのシニア審査官の論理がおかしければ、いくら優秀な人が審査官になっても変わらないかも知れませんが。

それもそうなのですが、弁護士も10万人以上いるわけで、今後もどんどん増え、訴訟社会になっていくことも想像されます。そうなれば、中国でも特許権が正当に評価され、先進国同様に保護されるようになるのではないでしょうか?

実際、外国企業が北京で特許侵害訴訟を提起した場合、100%外国企業が勝訴しているそうです。ただし、賠償額は予想外に低く、費用と労力がかかるわりには得られるのは名誉だけ、という噂もありますが。

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