我が社の製品はこれですからイ号製品は侵害、という主張

弁理士試験に合格して、しばらくして知財訴訟(特許権侵害訴訟)を見学する機会がありました。その頃はまだ東京地裁民事X部とか言っていたようなおぼろげな記憶があります。

その際、原告の社長は、自社製品を持って来て、うちの製品はこれで、お宅の製品はこれにそっくりだから、お宅の製品(イ号製品)は我が社の特許権を侵害している、と主張していました。

しかしながら、特許権の請求の範囲の記載は原告の会社の製品とは構造が違っていて、原告の特許権の権利範囲に入ってませんでした。であれば、いくら、今の製品が同じであっても、その部分は権利を取っていませんから、侵害には該当しません。つまり、原告の負けになります。

後で裁判官の方に聞いたら、そういうケースはかなり多いそうです。

つまり、特許権は取得していても、その後改良を重ねることで、その特許権の技術的範囲に入らない製品になってしまっている場合、それを他社が模倣した場合は、侵害になりません。

これを防止するためには、改良品を発明したら、それが過去に出願した特許の特許権の範囲に入っているかをチェックし、もし、権利範囲に入らないようなら、新たにその改良品について特許を出願する必要があります。

似たような話は、植物の品種でもあり、栄養繁殖(挿し芽)で増やす植物の場合、増殖中に遺伝子に突然変異が入って、10年も経つと、品種登録した物とは別物になっている場合もよくあります。

すると、10年前に品種登録していて、それで25年間(植物によっては30年間)保護されるはず、と思っていても、実際には、品種登録した品種の特性を記載した特性表とは違っていて、別品種とされ、それを真似した企業がいても、育成者権で差止めできない、というケースも実際にあるそうです。

このような場合に、上の裁判のケースのように、うちが今販売している製品はこれで、これと同じだから、イ号製品は侵害だ、と主張する場合もあるそうですが、やはり、品種登録の特性表と異なっていれば、異なる品種ですから侵害にはなりません。

そういう意味から言えば、製造工程を改善するなどにより、よりよい発明が出れば、それについて特許出願することをお勧めします。

それに加えて、出願時にいろんなバリエーションを記載しておいて、侵害しそうな製品が出てくれば、それに合せて権利範囲を変えて権利化する、というやり方もあります。

これは海外の企業がよくやる手で、出願時には1/2ページ位しか記載がないのに、米国では大量の特許を取得していて、それを根拠に侵害品が権利範囲に入るように分割出願を特許化する、という手です。

これをやられると、成立している特許権の権利範囲に入らないように設計して製造販売しても、その製品が含まれるような特許を後から取得され、侵害に該当するようにされてしまうケースもあります。

しかし、そのような特許は、分割出願の要件を満たさないことが多いので、出願日は原出願日には遡及しない、と主張して、出願日を現実の出願日まで繰り下げさせれば、先の自分の出願により進歩性違反で拒絶できる場合もあると考えます。

ですから、特許を取得していても、製造販売している製品がその特許の権利範囲に入っているか、を確認することが必要です。

また、他社が類似製品を出して来たら、それが権利範囲に入る特許を取れないか?を考えることも事業を守るためには必要です。それには、最初の出願時にしっかりいろんなバリエーションについて書いておくとともに、分割出願をうまく活用すれば可能になります。

国内優先権主張を伴う特許出願

特許出願をしてから、1年以内であれば、国内優先権を主張して特許出願をすることができます。

この場合、先の出願の明細書に記載してある事項については、先の出願日を基準に新規性、進歩性が審査されます。

ですから、先の特許出願をした後に先の特許出願の明細書に記載した事項を学会等で発表しても新規性を失うことはありません。

ところが、厄介なことに、学会発表を根拠に進歩性が否定される場合もありえます。

国内優先権主張出願ではなく、パリ条約による優先権主張出願ではそういう例が実際にあります。

山中伸弥京都大学iPS細胞研究所長の特許出願が優先権が有効でない、という異議申立を受けています。これは、最初の特許出願日が2005年12月13日、パリ条約による優先権を主張して国際特許出願した日が2006年12月6日、高橋講師のiPS細胞に関する論文が掲載されたのが、2006年8月で、欧州特許の請求項の内容は、最初の出願に記載がないので、高橋講師のCellの論文を根拠に新規性、進歩性が否定される、というものです。

企業であれば、特許出願を完了していても、出願公開後でないと論文発表できない規定のところもあります。それは上のようなトラブルを避ける意味もあります。

しかし、大学等の場合はどうしても論文を出したり、学会発表をして研究費を獲得する必要があるので、急いで発表してしまいます。研究のプライオリティを主張するためにも早く発表する必要があります。

そういう意味では大学の特許はなかなか強くて広い特許にはなりにくいという問題を抱えていますがやむを得ないと思います。

大学特許の場合は、それ以前に、実用化のための開発段階まで進めない、網羅的スクリーニングによる化合物の最適化ができない、などの問題もありますから、大学特許でお金を稼ぐのはかなり難しい面があります。

優先権主張できる出願は、以下の要件を満たす必要があります(特許法第41条第1項)。

一  その特許出願が先の出願の日から一年以内にされたものでない場合(その特許出願を先の出願の日から一年以内にすることができなかつたことについて正当な理由がある場合であつて、かつ、その特許出願が経済産業省令で定める期間内にされたものである場合を除く。)
二  先の出願が第四十四条第一項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第四十六条第一項若しくは第二項の規定による出願の変更に係る特許出願若しくは第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願又は実用新案法第十一条第一項 において準用するこの法律第四十四条第一項の規定による実用新案登録出願の分割に係る新たな実用新案登録出願若しくは実用新案法第十条第一項 若しくは第二項 の規定による出願の変更に係る実用新案登録出願である場合
三  先の出願が、その特許出願の際に、放棄され、取り下げられ、又は却下されている場合
四  先の出願について、その特許出願の際に、査定又は審決が確定している場合

このうち、4の、査定、審決が確定している場合とは、登録査定がされた場合で、その場合には、優先権主張の基礎とできません。

登録査定が出た場合は、それから30日以内に分割出願はできるのですが、上の3の規定により、分割出願に優先権主張はできませんから、結局査定が出たら、優先権主張はできないことになります。

ただし、パリ条約による優先権については、査定が確定していても優先権主張ができますから、日本以外の国については、優先権主張して出願可能です。ただ、日本については、パリ条約ではなく、国内優先権主張の要件で判断されますから、日本では、特許査定の出た出願への優先権は認められません。

ですから、登録査定が出たら、その特許公報が発行される前に、国際出願(PCT出願)するのがよいと思います。

大平国際特許事務所は所長が大学知財部の特任教授だったこともあり、大学知財の実情を熟知しております。海外のベンチャー企業へライセンスした経験もございます。企業、個人の方はもちろん、大学知財についてもお気軽にご相談下さい。

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味の素が韓国企業シージェイチェイルジェダン社らを特許権侵害で提訴

味の素は8月2日、うま味調味料「味の素」の主成分でもあるグルタミン酸ナトリウムの製造方法に関する特許を巡り韓国のシージェイチェイルジェダン社とその関連企業3社に対して特許侵害訴訟を起こしたと発表しました。

シージェイチェイルジェダン社とは、Wikipediaによると、以下の会社のようです。

CJグループ(シージェイグループ)の企業で、会長は李在賢(イ・ジェヒョン)。
1953年にサムスングループ初の製造業として제일제당(チェイルジェダン、漢字表記:第一製糖)工業株式会社を設立。表記の通り製糖業をはじめとする食品工業では韓国でもトップクラスに入るが、1993年にサムスングループと分離。アメリカの映画会社ドリームワークスSKGへの出資を手がかりにエンタテインメント事業へも進出し、映画製作、映画館経営、ケーブルテレビ放送向け番組制作および配給、インターネットサービスなども手がける。

ホームページによると、CJバイオ事業部門は、世界トップクラスの発酵技術で生産するMSG、核酸等の食品添加物や、L-リジン等の飼料添加物を国内外に提供しているそうです。この事業ドメインは完全に味の素と競合しますね。

味の素としては、ドイツのデュッセルドルフ地方裁判所と東京地裁で1日(現地時間)、提起したそうです。

製造方法の特許権侵害は、工場内で行われるため、通常発見することが難しいのですが、味の素がどうやって侵害を発見したのか、証拠を集めたのか、興味深いものがあります。

特許訴訟の場合、ディスカバリーや3倍賠償のあるアメリカで訴訟を起こすのが有利だと思うのですが、今回、味の素は日本とドイツで訴訟を提起したそうで、この訴訟戦略もどういう意味があるか、不明です。

侵害の発見、立証の目処が十分立っているのかも知れません。このあたりの証拠が不足している場合は、米国で提訴すれば、ディスカバリーで証拠を集められるので、侵害の立証が容易になります。今回はその必要がない位立証できる証拠が揃っているのかも知れません。

訴訟を提起する国の選択としては、まず日本とドイツだけ訴えておいて、相手が徹底的に争うようなら、米国等でも訴訟をする戦略なのか、あるいは、米国では特許が成立しなかったのか、いろいろな原因が考えられます。

いずれにしても、訴訟を好まない、日本企業が特許訴訟をしかけるのは看過できない相当な被害が出ているのではないかと推測します。日本の食品企業の代表である味の素社には、ぜひ勝訴して欲しいと思います。

発明家として成功するには起業家的発想が必要?

発明をする人は、義務感から発明する人は少ないと思います。企業で研究所に配属される人は通常は発明をするのは苦にならないと思われます。

素晴らしい発明をする人は発明が好きだから発明する、と言われています(「エジソンが役員室にいたら」)。実際、発明や発見がどんどん出てくる研究室もあれば、それほどぱっとしない発明や発見しか出てこない研究室もあります。

つまり、いい発明ができるかどうかは、運ではなく、やはり、優れた才能や努力が必要と思います。

発明するのが嫌いな人は、そもそも新しいアイデアを発想しようとしないので、発明できないことが多いです。そういう人は自分は画期的な発明をする才能が無い、と信じている場合もあります。

発明が好きな人は、新しいアイデアを考えるのが好きです。そして世間をあっと言わせてやろう、と考えています。他人を驚かせるのが好きなのでしょう。

人とは違った、独創的なアイデアを出して、他人を驚かせる、もっと言えば、驚かせるだけではなく、賞をもらったり、お金を儲けることに関心がある人もいるでしょう。これは自己重要感、つまり、自分は重要な人間である、と思いたい、ということだと思います。他人に対して自分の発明を自慢したい、という人もいます。

あるいは、単純にアイデアを出して、他人を驚かせるだけで満足して、論文を書いたり、特許出願をするのは面倒がる人もいます。つまり、賞をもらったり、お金をもらう必要はない人達です。

例えば、ロシアの数学者のグレゴリー・ペレルマンは、ミレニアム懸賞問題の一つであるポアンカレ予想を、多くの数学者が位相幾何学(トポロジー)の観点から挑戦する中、微分幾何学や物理学的アプローチで解決したことで知られています。

数学におけるノーベル賞と言われるフィールズ賞を受賞するほどの大きな業績でしたが、ペレルマンは査読付きの論文を書かず、ウェブで発表しただけだったそうです。彼などは、単に世間を驚かせるだけで十分で、お金や名誉は欲しくなかったのでしょう。

あるいは、世間を驚かせるというよりも、自分が誰も解けなかった大問題を解けたことだけで満足するタイプかも知れません。世間に評価して欲しいとも思っていなかったふしがあります。言わば、自己満足だけでいい、ということですね。

ノーベル賞を2度受賞したキュリー夫人も、本によれば、研究資金さえも受け取らなかったために、ラジウム1gを入手するのも大変だったようです。しかし、寄付金が入り、それにより研究が進められた、というような話がありました。

つまり、発明、発見する研究者の中には、お金も名誉も必要なくて、単に研究して発見、発明するだけで満足するタイプもいると思われます。

その一方で、発明をして億万長者になりたい、という発明家も大勢います。いわゆる町の発明家達です。

大規模な研究所で最先端の設備を持つ博士号を持つ研究者ではなく、普通の主婦とかでも町の発明家として経済的に成功することは可能です。

しかし、大成功して億万長者になれる人はそれほど多くはいません。

なぜなら、発明品がヒット商品になる必要があるからです。

商品がヒットするかどうかは、発明が優れているだけでは足りません。マーケティング、営業のうまさやネーミング、時代(タイミング)、運など多くの要素が関係してきます。

つまり、発明家として成功するには、単に発明ができる、というだけでなく、マーケットを考えて発明することも重要でしょう。そうでなければ、全くの運任せになってしまいますから。

そういう意味では、発明して億万長者になりたい場合は、ヒット商品を生み出すつもりでやるのがよいと思われます。

大平国際特許事務所では、企業様はもちろん、一般の発明家の方にもコーチング&コンサルティングサービスを提供しております。

発明コーチング&コンサルティングお問い合わせはこちらから

ただ、個人的にはもう一つ発明をする際に重要なことがあると思っています。

ドクター中松こと、中松義郎博士がしょうゆチュルチュルというポンプを発明したのは、中松博士の母が重い醤油瓶から小分けするのに苦労しているのを見ていて思い付いたという話があります。

つまり、お金を儲けたい、という自分だけが良ければいい、という考えだけでなく、他人に楽をさせてあげたい、という愛の心も発明家には必要な気がします。

個人的には、人間は、他人から奪うためにこの世界に来ているのではなく、他人に与えるためにこの世界に来ている、という考え方が好きです。

つまり、他人に与えるために、発明をする、という発想で発明すればいい発明が生まれるような気がしています。山中伸弥教授も変形性関節炎の患者を救いたい、という気持ちから基礎医学に転向し、ノーベル賞を受賞されましたから。

Dr中松も発明をするには愛が大切、と言っています。

 

論文を見て、製品を作る場合、特許侵害に注意

Nature, Cell, Scienceなどの記事や実験方法を書いた雑誌を見ていると、いい方法が書いてあったりします。そして、それを取り入れて、製品化を始めたとします。

数年の実験の後、漸くうまく行く様になり、発売しようかと考えていたら、その方法が特許出願されていて、製品化前に特許登録されてしまった、というようなケースはあり得ます。

その場合、その特許発明を実施すれば侵害になりますから、マネを続けるわけにも行かず、その特許発明は使用しないようにするのが無難と思われます。

特にアメリカでは3倍賠償という制度があり、損害額の3倍の賠償額が認められることがあります。特に、陪審員裁判の場合には、感覚的なもので、3倍賠償が認められるケースもあるので危険です。

ですので、他人の論文を見て、それを取り入れて新製品を作る場合は、少なくとも、その著者の特許だけは見ておく必要があります。著者名をUSPTOの特許検索や、WIPOのpatent scope等で検索欄や発明者欄に入れて検索すれば、特許を出願していれば、見つかります。

もし、その出願が特許になったら困るのであれば、情報提供をすることで、特許登録されるのを阻止できる場合があります。これは、その出願が新規性、進歩性がない、あるいは、記載要件違反である、等の特許要件を備えていないことを情報提供するわけです。

また、その特許出願番号をメモしておいて、定期的にその出願が特許になったかどうかをチェックします。

そして、登録された場合には、異議申立をすることも可能です。それにより、登録査定が取り消される場合もあり、そうなれば、自由にその発明を実施できます。

もし、特許が出願されてなかったり、特許出願が拒絶査定確定したりしていれば、その場合は自由に使えます(他に関連する特許や公開出願がないことが前提ですが)。

その場合は、安心して製品を製造販売できますが、他社も同様に製造販売が可能になるので、競争が激しくなる可能性もあります。

そういう意味で、他人の論文などを参考に新製品を開発する場合は、その論文が特許になっていないか十分チェックされることをお勧めします。

さらに、特許出願を検討して、その特許には抵触しない新発明をする、というやり方もあります。それができれば、一番問題がないですし、自ら特許出願して特許化できる場合もあり、その場合は、その発明を独占的に実施して利益を独占することも可能です。