人体を構成要件に含む発明の特許出願

特許を受けるためには、産業上利用できる発明でなければなりません。これは特許法の条文(29条1項柱書)にも明確に規定されています。

これを言葉どおりに取ると、例えばあんま方法(按摩方法)の発明は産業上利用できる、つまり、あんま産業に利用できるから特許法上の発明に該当するように思えます。

しかしながら、人体を構成要件に含む発明は法上の発明には該当せず、29条1項柱書違反として拒絶されます。

これは、医療行為が特許になるのを防止する意味の規定ですが、医療行為は人道上広く開放すべきもので、特許にはなじまないという考えから、日本や欧州などほとんどの国で医療方法は特許の対象になっていません。

一方で、米国、オーストラリアは医療方法の発明も特許が取れます。米国の場合は医療方法(手術方法、治療方法など)の特許は取れますが、医師にはその権利は及びませんから、医師は自由にその特許発明を実施することができます。すると、医療方法の特許を米国で取っても、医師から実施料を取れるわけではなく、その方法を実施するのに使用するメスなどを開発して販売するベンチャー企業を間接侵害で訴えることになります。

そういう意味で、医療方法が特許になったとしても、米国では医師が免責されているので医師の行為を特許侵害で差止したり、損害賠償を請求することはできません。

また、日本で医療方法の特許が認められないのは、医師に対する免責規定がないから、という裁判例があります。逆に言えば、医師の特許に対する免責規定をおけば、日本でも医療方法を特許の対象にすることは理論的には可能です。

ただ、以前このことを政府の審議会で議論したときに、医師会の会長が、免責、というのは何か悪いことをしているイメージがあるのでダメだ、というような発言をしたために免責についてそれ以上議論されなかったという、本質的でない議論で決まった面がありました。

医療は人類に広く開放すべきと思いますが、あんまとかマッサージは人道上広く開放すべきものかどうか、と言えば、必ずしもその必要はないようにも思います。人の命にかかわるものではないですから。そういう見方をすれば、特許の対象にしても良さそうにも思いますが、日本の審査基準では人体を必須の構成要素とする発明は医療方法の発明と同様にみなされ、特許の対象にはなりません。

医療が産業であるかどうか、については議論があるところで、欧州でも以前、医療業は産業に該当しないので特許にならないというような規定がありました。欧州特許条約の改定により、産業という言葉が削除され、単に医療行為は特許しない、というだけの規定ぶりになったと記憶しています。

そういうわけで、あんまとかマッサージの方法は特許の対象になりません。特許出願しても上記の理由で拒絶されます。

その一方で、以前医療行為とされていた一部の行為が例外的に特許されるようになっています。これは医療ベンチャー保護のため等の理由です。

あんま業界からあんま方法や、マッサージ方法も特許にすべき、という強い要請があれば、あんまやマッサージの発明も特許されるようになるかも知れません。

なお、日本では特許になりませんが、米国や豪州では医療方法も特許になるので、米国やオーストラリアにパリ条約の優先権主張をして特許出願する手はあります。

また、将来法改正や審査基準の改定により、あんまやマッサージの方法も特許の対象になる可能性がゼロではないので、特許出願しておく、という戦略も考えられます。改正が無ければ拒絶されますが、改正で特許になれば独占できるので、そのリスクを取って特許出願してみるのも面白いかも知れません。

医療方法やマッサージ方法で権利化を考えている方はお気軽にご相談下さい。何らかの方法がある場合もあり得ますので。

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発明、発見と用途発明の特許出願 食品の用途発明について

お茶の用途発明についてご質問を受けましたので、過去の記事を更新しました。

下の話は2016年3月以前の内容です。2016年4月からは、審査基準が改訂され、食品の用途発明が認められるようになりましたので、飲料や食品に新たな用途を発見すれば、用途発明として特許が取れます。

例えば、従来からあるお茶に予想以上に強いダイエット効果が見出された、というような場合は、特許になり得ます。

しかしながら、そのお茶が知られていて、かつ、その強いダイエット効果も既に知られている場合には新規性が無いので特許にはなりません(もし知られてから半年以内であれば一定の要件を満たせば特許が取得できる可能性はあり得ます)。

つまり、新たな用途が新規である必要があります。または、製造方法が知られていなければ製造方法で特許を取れる場合はございます(これは従来と同じですが)。

関連記事 食品の用途発明

(2016年3月以前の状況は以下のとおりでした)

食品の場合、新たな用途を発見しても、用途特許は認められません。

例えば、緑茶にダイエット効果があることを発見して、緑茶を有効成分とするダイエット茶というような特許請求の範囲を書いても特許にはなりません。

しかしながら、例えば、除草剤と同じ成分が抗がん剤として効果がある、ということを発見すればその除草剤を有効成分とする抗がん剤という用途発明が成立します。

これはどういうことかというと、緑茶の場合は、昔から飲まれていて、実際にダイエットの効果はあったが単に気づかなかっただけで、その効果を発見しただけだ、という論理です。

これに対して、除草剤を飲む人はいないので、そのような効果は以前は発揮されておらず、投与して初めてわかることなのでそれまでそのような効果が出る使い方はされていなかったので特許になる、ということです。

このあたりの議論は突き詰めていくと、食品の用途特許も認めるべき、という議論をする人もいます。

実際、食品の用途発明が特許になっているケースもあります。私も大学にいたときに、食品の用途特許を成立させたことがあります。

食品の用途発明の特許を取りたい、という方はお気軽にご相談下さい。企業であればセミナーをすることも可能です。

謹賀新年と何でも特許登録にできる自信

新年明けましておめでとうございます。
旧年中はお世話になりました。
本年もよろしくお願い申し上げます。

一昨年、ある特許出願について非常に難しいと思われる拒絶理由を克服して何とか特許査定にしたら、その後付与後異議申立が来ました。あるヒット商品に直接関わる特許ですから予想されたことではありますが。

異議申立書は、おそらく同一の会社が出したと思われるものが何件も出されて、ページ数も50ページを超えるものもあり、かなり気合いの入った異議申立でした。同一の会社が書いたと思われるのは、記載のフォーマットが同一だったからと、引用文献が一部共通していたためです。

しかも、業界の内部事情にも非常に詳しいので、明らかに同業者としか思えませんでした。まぁ、複数の異議申立でメインの引用文献が1つを除いてライバル会社のものだったので、どこの会社かは大体想像がつきましたが。その1つもメインの引用文献ではないですが、3番目位に引用していたので、それも同じ会社でしょう。

異議申立を何件も角度を変えて出すことで、審判官に無視されることを避けられるのかも知れないな、と感じました。1件だけだと、あっさり登録維持の判断をされそうな気もしますから。その分、こちらも読むのが大変でした。

異議申立は、拒絶理由のように応答期間の延長ができませんから、取消理由通知が来てからでは対応がギリギリの時間しかありません。しかも内容は拒絶理由より高度で緻密ですから、反論もそれに応じて十分な検討時間を取るのが好ましいです。

そういう意味で、異議申立書が来たら、すぐに全体を読んで、反論を考えておくのがよいと思われます。もし、全ての異議事由が取消理由に採用されなくても、将来の無効審判や無効の抗弁に対抗するために使えますから。

異議申立書は、普通の拒絶理由通知よりも、その分野に長く(おそらく何十年も)関わってきたプロ中のプロの専門家が詳細に議論しているので、拒絶理由よりもずっと深く、高度で的確です。ですからこちらもそれに応じた高度な反論が必要になります。

そういう意味からいえば、異議申立の取消理由通知への反論の期間はもっと長くするべきだし、延長の必要性は、拒絶理由通知の応答期間よりも大きいと思います。

今回の異議申立書の引用文献は20年以上前のものが中心で、おそらくその時期にこの異議申立書の原案を書いた担当者がこの発明について集中的に研究をしていたのでは?と思います。

この案件をやったことで、拒絶理由対応も、異議申立の対応も、非常に難しい案件に対応できる能力が飛躍的に上がった気がします。

これ以外にも、非常に難しいと思えた拒絶理由を解消して特許にできることが、日本国内だけでなく、海外の案件でも続いたので、どんな拒絶理由や異議申立理由が来ても反論して特許にできる自信がつきました。(ただし明らかにズバリの引例がある場合は無理と思いますが)。

この異議申立案件はまだ結論が出てなくて、取消の予告登録がされる可能性もあり得ます。仮に異議申立をクリアしても、おそらく無効審判で争ってくる可能性もあり、長い闘いになる可能性もあります。

今年は海外への移行手続きも多くなりそうで、ますます忙しくなりそうですが、これまでに蓄積したノウハウを駆使して難しい出願もどんどん特許にしてクライアント様の事業を守り、発明者や知財部員の皆様にも喜んで頂くつもりです。この特許出願依頼のブログもできるだけ更新して行く予定です。

本年もよろしくお願い申し上げます。

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特許取得が非常に難しい特許出願 えっ?あれが特許になったの?

特許出願をする際に、クライアント様からできる限り広く書くようにという指示があり、ぎりぎりまで広い特許請求の範囲を書くことがあります。大学の教授などの一部にそうした依頼が多い印象があります。

そういう場合は、請求項を広く書いてありますから、先行文献がたくさんひっかかることが多く、最初の拒絶理由通知で相当減縮補正する必要が出てきます。

しかし、その減縮補正がもともと想定内の範囲で補正し、それがそのまま登録される場合もあります。

そういうときは、特許出願明細書を書いた私自身驚くことがあります。「えっ、あれで特許になるの?」という感じです。もっと狭くなることを覚悟していたら、意外にあっさり特許になったりします。

あるいは、これは取れたらおかしい、という請求項でも通る場合もあります。これには審査官、審判官が深く理解していないために起こるケースもあり得ます。

また、以前も書きましたが、新規性喪失の例外手続きをミスしていて、自分の論文で拒絶理由が来た場合に、その論文を精査して微妙な違いを指摘して特許にしたこともあります。これは図面の説明文の最後の方にわずかに違いが書いてあったのを見つけて反論したらあっさり特許になりました。

どうしてこんな記載をしたのだろう?と不思議な感じがしましたが、研究者の中には自分の成果をできるだけ隠そうとする人もいて、本当のところがわからないように隠して特許出願をしていたのかも知れません。そのような場合は、自分の論文が公知になっていても特許にできる場合があり得ます。

そのときは、ある中堅程度の特許事務所に勤務していたのですが、上司の責任者(所長の次に偉い弁理士)も、「こんなの特許にできるわけないから頑張らなくていい、相手が悪いんだから」と言っていたのですが、特許査定になったら、「へぇ~、あれが特許になったんだ」と驚いていたことがあります。このときはすぐに(応答から2ヶ月位で)特許査定が来ました。

それとは対照的に、健康食品の特許出願で非常にやっかいな拒絶理由を何度も何度も出され、審査官とケンカのような議論をして5、6回補正をして通したことがあります。このときも、その研究所の知財の担当者が驚いてました。

この案件は、出願を担当した有名事務所が代理人を辞任して、どうしようもなくなって私の方に依頼してきた案件だったのでまさか特許になるとは思っていなかったのでしょう。

そうやって何度も面接して長い苦労をして特許を通すのも通った後の喜びが大きいのですが、非常に難しいと思っていた拒絶理由をあっさり解消して特許査定にできるのもとても気分がいいものです。

そういう意味では、こんなに広い権利は無理だろう、と思ってもやはり請求項に書き込んでおくのがよいと思います。最終的には最初の想定の範囲内の狭い権利しか成立しなくても、予想外に広い権利が取れる場合もあるからです。

そうしたチャレンジングな特許出願が大平国際特許事務所では得意です。これは非常に難しいけど何とか特許にしたい、という特許出願の依頼もお待ちしております。

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弁理士を指名して特許出願を依頼すべき

特許申請(特許出願)を弁理士に依頼する場合、特許事務所だけ決めて、どの弁理士に依頼するかは事務所に任せる会社や人も多いと思います。

しかしながら、大手の事務所ですと腕のいい弁理士は既に大手のクライアントがついていて忙しく、あまり経験のない新人弁理士は仕事が少なく暇なことが多いです。

すると、弁理士を指定せずに特許事務所に特許出願を依頼すると、1,2年前に弁理士になった人が担当になったりします。そういう弁理士は経験が不十分ですから、いい明細書が書けない場合もあり得ます。場合によっては、知財部員の方から基本的なこと(判例など)を教えてあげる必要があったりします。

ですから、特許事務所に特許出願や特許調査、拒絶理由対応、拒絶査定不服審判、無効審判対応、訴訟等を依頼する場合は、弁理士名を指定して依頼すべきです。弁理士によって全然レベルが違いますから。

私も昔、大学からある大手事務所に出願を依頼したところ、基本的なことを知らない弁理士に当たり、ほとんどこちらが教えるような形になってしまったことがありました。大手だからと弁理士を指定しなかったために、1年前に入って、あまり明細書を書いた経験のない弁理士が担当して苦労しました。

会社員時代にも、数百人いる特許事務所に依頼したとき、特許庁の元審判官の方が明細書を担当されたのですが、あまり明細書を書いたことがなく、審判が得意な方だったようで、明細書としてはあまり素晴らしいものではありませんでした。

弁理士の役割としては、明細書は、研究者の科学技術を法律的な権利に翻訳することだと私は思っています。ですから、科学技術の知識、法律知識の両方を熟知して、しかも、最新の国内外の判例を熟知して作成する必要があります。場合によっては、将来の法改正の方向性まで予測する必要があります。

しかしながら、弁理士の能力には個人差があり、それができる弁理士もいればできない弁理士もいます。

ですので、特許事務所に仕事を依頼される場合は弁理士名を指定して依頼するのがよいと思います。

ただ、弁理士を指定するといっても、弁理士の腕がわからないと指定のしようがありません。そのような場合は、いくつかの特許事務所に依頼してみて、一番いいと思った弁理士に依頼するのがよいです。

個人の方の場合は、そんなに大量に特許申請しないでしょうから、その弁理士の経歴、得意分野、博士号を持っているか、大学の教授等をやっているか(いたか)、政府の委員をやっているか(いたか)、委員会活動をやっているか(いたか)などを総合的にみて信頼できると思える弁理士を選べばよいと思います。

ただ、弁理士も他に仕事がないというわけではなく、常に数件から数十件の案件を並行して処理していて、あなたの案件だけをやっているわけではありません。他の会社や研究所、個人などの緊急な案件とか、期限が間近な案件などを常に抱えています。

ときには、その会社の重要な商品(例えば、売上数百億円など)に絡む特許権の無効審判や異議申立事件、あるいは侵害訴訟事件に関わっている場合もあり得ます。

そうしますと、必ずしも、すぐに返事が来ない場合もあり得ますから、スピードが速いからいい弁理士とも限りません。むしろ暇な弁理士かも知れません。

そういう意味では、単に一番対応が早かった弁理士を選ぶのではなく、様々な視点で弁理士を比較して、一番自社に向いていると思われる弁理士を選ぶことをお勧めします。

また、分野毎に依頼する弁理士を変えるのは当たり前です。例えば、地方にはバイオテクノロジーをあまり知らない弁理士がバイオの出願をしていたりします。そういう場合は遠くても、都会の弁理士事務所に依頼することをお勧めします。今は電話、メール、インターネットだけでも十分いい明細書を作成することが可能ですから。

当所も一度も会ったことのない方が鹿児島県から北陸地方あたりまでいます(なぜか当所は東北地方や北海道のお客様はおられません)が、問題なく出願し、権利化もできています。

ただ、ものすごく重要な案件は、できれば、直接会って議論する方が好ましい場合はあり得ます。その場合は、必要に応じて出張可能ですので、その旨ご連絡いただければ、と思います。

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ブロックバスターの特許切れ問題 メルク、ファイザー

メルクがブロックバスターの特許切れで収益が減少しているそうだ、と2013年5月3日に書きました。しかしながら、メルクは新たな免疫チェックポイント医薬である、キートルーダで今年600億円程度の売上げをあげ、この免疫チェックポイント医薬は、10年後には小野薬品のオプジーボと合わせて3兆円の市場になるだろうと言われています。

オプジーボは、小野薬品が日本で販売していますが、海外ではブリストルマイヤーズスクイブが販売しており、7000億円位の売上げだそうです。小野薬品はPD-1抗体、PD-L1抗体に対する特許をもっており、そのライセンス収入は600億円強だそうです。

小野薬品の日本での売上げ予想は今年度で1700億円程度とのことです。

メルクも一時期ブロックバスターの売上げが減り、困っていましたが、抗PD-L1抗体のキートルーダで巻き返しに来ています。

しかしながら、小野薬品と本庶佑先生のPD-1特許にはPD-L1も含まれていることから、メルクはこの特許権を侵害しているとして、小野薬品から世界中で訴訟を起こされており、メルクもこの特許に対して異議申立や訴訟等で対抗しているようです。

小野薬品としては、メルクの販売を完全に差止までする気はなく、ライセンス料を支払えば、販売してよい、という姿勢のようです。今後の訴訟の動向が注目されます。

以下は2013年の記事です。

メルクはピーク時50億ドルの売り上げだった、ぜん息・抗アレルギー薬「シングレア」の売り上げのほとんどを失ったという。米国の場合は薬価が無く、ジェネリック医薬品が出たら、価格は10分の1位に一気に下がるので、先発医薬品メーカーからジェネリックに一気に移行する。

日本の場合は、薬価があり、特許が切れても6%づつ位しか薬価が下がらないので、新薬メーカーの薬を使い続ける医師も多いようだ。それに、日本の後発医薬品メーカーの中にはしっかりとデータを出さずにまた、副作用チェックもあまりやらないメーカーもあるようで、品質に不安があるメーカーもある。そういう意味では日本の方が新薬メーカーに有利と言えるかも知れない。

米国ではオレンジブックというジェネリック薬の評価の付いた本があり、新薬メーカー同等の品質のジェネリック医薬を選ぶことができるのでジェネリック薬が普及しやすい。

とはいえ、米国は薬価制度が無いので数百万円の薬がたくさんあるというメーカーにとってのメリットはある。

メルク社では、抗アレルギー薬「クラリネックス」も予想を上回るペースで後発医薬品へのスイッチが進んでおり、これも悩みの種になっているようだ。糖尿病治療薬「ジャヌビア」も競合他社との値下げ競争があり、さらに、より優れた新薬が認可される可能性もあるので、売上規模の予測が立たないようだ。

医薬品開発では巨額の開発投資がかかるが、低分子化合物医薬は出尽くしたという説もあり、いずれは枯渇すると思われる。そうなるとバイオ新薬の方にシフトし、より高額医薬品が増える可能性もある。

また、バイオ医薬は特許が複雑に絡み合い、物質特許のように1つの特許(出願)でブロックバスターを保護できる、というわけでもない。そういう意味では今後、医薬の特許出願が増える可能性があると思われる。

特許出願戦略コンサルティング

特許出願をする目的はいろいろです。

研究者が報告してきて、出願予算もあるからとりあえず出願する、という受動的な出願もあれば、年度末で予算が余っているから予算消化のために数を出願する、というもの、あるいは、非常に難しいけど、事業を守るために何とかしたいから特許化は難しくても出願する、という特許出願などです。

最後の、特許を取るのは非常に難しいけど、製品を出しているので、何とか参入障壁を作りたい、というのは、知財部や弁理士の知恵の見せ所だと思います。重要で複雑な案件の場合、知財部員と弁理士が戦略会議を数時間~1日かけてすることもあります。

専門家が集まって会議をすることで、切り口を工夫することで、とても特許にならない、と思っていた発明が意外に新規性、進歩性を満たす発明になったりすることもありえます。

特許庁審査官のように、これはこの論文に実質書かれている、審査基準にこう書いてあるから特許にならない、これはあの判例があるから取れない、と評論家のようなことを言うのは簡単です。

しかし、それらは絶対に回避できない場合はむしろ少ないと思います。

さらに、先行技術を見つけてきて、出願を諦めさせるのを趣味にしているような知財部員も昔は見たことがあります。例えば、化学式で検索して、発明者が出してきたアイデアを却下する、というのが得意な知財部員もいました。「また、1件潰してやった」と得意そうに言っていました。

確かに、研究者の中には、出願実績が欲しいために、先行技術調査をしていないのに、したと言ってウソの発明届出書を出して出願しようとする研究者もいるので、先行技術調査をして、ズバリの先行技術がある出願は諦めさせるのは知財部員の仕事ではあります。

しかし、企業の場合、難しいのはわかっているが、製品を発売しているので、どんなに可能性が低くても何とか特許等で保護したい、というケースはあるものです。

あるいは、発明のポイントを隠して権利化したい、という希望を持っている研究者もかなりおられます。その場合に、全てのポイントを隠すことは非常に難しいですが、一部のポイントを隠すことでライバル他社が簡単にマネするのを防止することは可能です。

ただし、発明のポイントを隠して出願する場合は、様々なリスクがありますので、出願するのであれば、完全に実施できるように開示し、隠したいのであれば、ノウハウとして秘匿し、一部のみを出願するオープン・クローズ戦略を検討すべきです。

そのように、高度な特許出願戦略を練る必要がある場合は、事業部、研究者(発明者、開発者)、知財部員(特許部員)、営業部員、法務部員等を集めてブレインストーミングして、どうすれば特許になるか、どういう形で権利化するかの知恵を絞るのがよいです。

ただ、それでもいい知恵が出ない場合もあるかも知れません。あるいは、もっといいやり方がある場合もあります。知恵をもっとブラッシュアップできる場合もありえます。

そういう時は、専門家の弁理士に特許出願戦略コンサルティングを受けられることをお勧めします。コンサルティングには、知財部員、発明者等の会議に参加して意見を言うことも含みます。

特許出願の戦略は事業戦略と一体になって初めて機能します。事業を成功させるための事業戦略がまずあり、その事業戦略を知財でどう守って行くか?が重要になります。

まず、その根本からはじめて、事業を守り、他社の参入を防止するためには、どういう権利があればよいか、を考えます。つまり、理想的な権利を考えてみます。事業によっては複数の権利が必要なケースもあり得ます。

次に、現状の先行技術調査から特許化できる請求項を考えます。ぎりぎりまで広く権利化できる請求項や、先行技術とぎりぎりひっかからず、しかも、発明を完全に守れる請求項を書くことも可能です。ここは弁理士がもっとも得意とするところであり、弁理士の腕により権利の幅や強さが変わるところです。

普通に考えたら無理、というような場合でも、どうしても特許化したい、というのであれば、普通の弁理士では権利化は無理、と断言するところでも、腕のいい弁理士であれば何とかして知恵を絞って特許を取れる方法を考え出せることもあります。

日本では普通やらない出願でも、アメリカでは有効であれば、アメリカで有効な特許出願戦略を立てます。日本よりも米国の方が市場が大きいので、日本で取れなくても、海外で有効な権利を取得した方が有利な場合もあります。

特許出願戦略は国によっても違います。各国の制度に精通した弁理士に出願戦略を相談するのがお勧めです。当事務所でも日米欧中だけでなく、東南アジアなどへの出願も取り扱っております。

特許出願戦略コンサルティングのご希望は以下からお気軽にご相談下さい。

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利根川進先生と本庶佑先生の特許(出願)とPD-1抗体、ノーベル賞

利根川進先生(免疫細胞のゲノム再構成の発見で1987年ノーベル賞受賞者)の特許や請求項を検索している人がいるので調査してみましたが、利根川進先生の日本での特許出願、実用新案登録出願、特許等は見つかりませんでした。そこで、念のため米国特許庁(USPTO)も調べてみたところ、10件見つかりました。ほとんどTリンパ球に関する特許ですね。

利根川進先生は、特許に対してはあまり関心がないのかも知れません。研究テーマもメカニズムの解明ですから、何かを作り出すというよりは、どうなっているか?の発見に関心が強かったのでしょう。

1 7,935,500 Full-Text Identifying calcineurin activators for treatment of schizophrenia
2 5,977,321 Full-Text Heterodimeric T lymphocyte receptor subunit
3 5,882,945 Full-Text Heterodimeric T lymphocyte receptor
4 5,859,307 Full-Text Mutant RAG-1 deficient animals having no mature B and T lymphocytes
5 5,580,961 Full-Text Heterodimeric T lymphocyte receptor subunit
6 5,189,147 Full-Text Meterodimeric T lymphocyte receptor antibody
7 4,970,296 Full-Text Heterodimeric T lymphocyte receptor
8 4,874,845 Full-Text T lymphocyte receptor subunit
9 4,873,190 Full-Text Heterodimeric T lymphocyte receptor
10 4,663,281 Full-Text Enhanced production of proteinaceous materials in eucaryotic cells

利根川進先生のライバルのような存在の本庶佑(ほんじょ たすく、元京大医学部長)先生は以下のように多数の日本特許を出願されています。本庶佑先生の頃は、大学に知的財産本部のような組織もなく、会社から出願しているものが多いですが、本庶佑先生個人が出願人になっている出願もかなりありますね。もっとも、費用は会社持ち、というケースもあるので、本庶先生がポケットマネーで出願したかどうかは不明ですが。

本庶佑先生のPD-1抗体はガンの特効薬(免疫チェックポイント阻害薬)として年商1000億円を超えるブロックバスターになっています。小野薬品もこれですごく利益をあげていると思われます。オプジーボという名前の薬品のようです。PD-1抗体は今年2016年のノーベル賞候補でしたが、今年は大隅先生がノーベル賞でした。

PD-1に対抗してPD-L1抗体も開発され、同様に癌の免疫抑制を防止して免疫による癌の攻撃を可能にするので、医薬としては、PD-1もPD-L1も似たような働きをするようです。

こちらは米国製薬企業のメルクが開発しているキイトルーダというものです。こちらは肺がんにも効果があるということで、小野薬品のオプジーボとは異なります。オプジーボがキイトルーダと同じ条件では肺がんに効かないとわかり、小野薬品の株価が急落したそうです。

キイトルーダは臨床試験開始からたった3年で米国での承認までこぎ着けたそうで、世界では30種類超のがんに対し、350本に上る臨床試験が並行して行われているそうです。メルクの力の入れようが伺えます。

今後は、小野薬品グループとメルクとの争いになるでしょう。

実際、小野薬品工業は、2016年10月24日に、新型がん治療薬「オプジーボ」の特許権を侵害されたとして、キイトルーダの製造販売差止を求める訴訟を東京地裁に起こしました。小野薬品は、「PD-1の免疫抑制シグナルを阻害する抗PD-L1抗体を有効成分として含む癌治療剤。」という請求項1で特許が認められていますから、特許が有効であれば、キイトルーダの製造販売差止が認められる可能性もあり得ます。訴訟の行方が注目されます。

特開2010-229134 ヒトPD-1に対し特異性を有する物質 小野薬品工業株式会社 他
特開2009-286795 モノクローナル抗体 小野薬品工業株式会社 他
特開2008-191146 ヒトおよび哺乳動物の幹細胞由来神経生存因子 本庶 佑 他
特開2007-291132 新規なポリペプチド、その製造方法、そのポリペプチドをコードするDNA、そのDNAからなるベクター、そのベクターで形質転換された宿主細胞 小野薬品工業株式会社
特開2007-130024 新規なポリペプチドESDN、その製造方法、ESDNをコードするcDNA、そのcDNAからなるベクター、そのベクターで形質転換された宿主細胞、ESDNの抗体、およびESDNまたは抗体を含有する薬学的組成物 小野薬品工業株式会社 他
特開2007-023047 PD-1欠損マウスおよびその用途 小野薬品工業株式会社 他
特開2006-262911 ヒト免疫グロブリンVH遺伝子及びそれを含むDNA断片 日本たばこ産業株式会社 他
特開2006-117536 内耳の有毛細胞を誘導するための医薬 国立大学法人京都大学
特開2005-336198 新規なポリペプチド、その製造方法、そのポリペプチドをコードするDNA、そのDNAからなるベクター、そのベクターで形質転換された宿主細胞 小野薬品工業株式会社
特開2004-279429 高感度イムノアッセイ法 独立行政法人 科学技術振興機構
特開2004-033137 抗癌剤のスクリーニング方法 本庶 佑 他
特開2003-230395 プログラムされた細胞死に関連した新規なポリペプチドをコードするDNA 本庶 佑 他
特開2003-189872 新規なポリペプチドESDN、その製造方法、ESDNをコードするcDNA、そのcDNAからなるベクター、そのベクターで形質転換された宿主細胞、 ESDNの抗体、ESDNまたは抗体を含有する薬学的組成物、ESDNを用いたスクリーニング方法、および抗ESDN抗体を用いたESDNの免疫化学測定 法 小野薬品工業株式会社 他
特開2002-165592 プログラムされた細胞死に関連した新規なポリペプチドをコードするDNA 本庶 佑 他
特開2001-327289 膜結合型ネトリン 理化学研究所
特開2001-245669 新規シチジンデアミナーゼ 日本たばこ産業株式会社 他
特開2001-112491 ヒト免疫グロブリンVH遺伝子及びそれを含むDNA断片 日本たばこ産業株式会社 他
特開2001-017191 新規なポリペプチド、その製造方法、そのポリペプチドをコードするDNA、そのDNAからなるベクター、そのベクターで形質転換された宿主細胞 小野薬品工業株式会社
特開平11-308993 cDNAライブラリーの作製方法およびポリペプチドのスクリーニング方法 本庶 佑 他
特開平11-046777 ヒトB細胞分化因子の製造方法 本庶 佑
特開平10-262673 B細胞分化因子の製造方法 本庶 佑
特開平10-136983 新規なポリペプチド、その製造方法、そのポリペプチドをコードするDNA、そのDNAからなるベクター、そのベクターで形質転換された宿主細胞、そのポリペプチドの抗体、およびそのペプチドまたは抗体を含有する薬学的組成物 小野薬品工業株式会社
特開平09-215496 ヒトB細胞分化因子の製造 本庶 佑
特開平08-301898 新規なポリペプチド、その製造方法、そのポリペプチドをコードするDNA、そのDNAからなるベクター、そのベクターで形質転換された宿主細胞、そのポリペプチドの抗体、およびそのペプチドまたは抗体を含有する薬学的組成物 小野薬品工業株式会社
特開平08-198899 新規なポリペプチド、その製造方法、そのポリペプチドをコードするDNA、そのDNAからなるベクター、そのベクターで形質転換された宿主細胞、そのポリペプチドの抗体、およびそのペプチドまたは抗体を含有する薬学的組成物 小野薬品工業株式会社
特開平08-067698 B細胞分化因子 本庶 佑
特開平07-291996 ヒトにおけるプログラムされた細胞死に関連したポリペプチド、それをコードするDNA、そのDNAからなるベクター、そのベクターで形質転換された宿主細胞、そのポリペプチドの抗体、およびそのポリペプチドまたはその抗体を含有する薬学的組成物 本庶 佑 他
特開平07-188294 新規なポリペプチド、その製造方法、そのポリペプチドをコードするDNA、そのDNAからなるベクター、そのベクターで形質転換された宿主細胞、そのポリペプチドの抗体、およびそのポリペプチドまたは抗体を含有する薬学的組成物 小野薬品工業株式会社
特開平07-165795 ヒト・インターロイキン-2受容体 本庶 佑
特開平06-315380 cDNAライブラリーの作製方法、および新規なポリペプチドとそれをコードするDNA 本庶 佑 他
特開平05-336973 プログラムされた細胞死に関連した新規なポリペプチドおよびそれをコードするDNA 本庶 佑 他
特表2003-510007 分泌蛋白 ジェネティックス・インスチチュート・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
再表2004/091476 心臓疾患治療物質のスクリーニング方法および心臓疾患治療医薬組成物 小野薬品工業株式会社 他
再表2004/072286 ヒトPD-1に対し特異性を有する物質 小野薬品工業株式会社 他
再表2004/004771 免疫賦活組成物 小野薬品工業株式会社 他
再表03/035872 ヒトおよび哺乳動物の幹細胞由来神経生存因子 本庶 佑 他
再表03/011911 PD-1に対し特異性を有する物質 本庶 佑 他
再表02/039813 PD-1欠損マウスおよびその用途 小野薬品工業株式会社 他
再表01/023891 高感度イムノアッセイ法 科学技術振興事業団
再表99/055864 新規なポリペプチド、そのポリペプチドをコードするcDNA、およびその用途 ジェネティックス・インスチチュート・インコーポレーテッド 他
再表99/055863 新規なポリペプチド、そのポリペプチドをコードするcDNA、およびその用途 小野薬品工業株式会社
再表99/018205 ポリペプチド、そのポリペプチドをコードするcDNA、およびそれらの用途 小野薬品工業株式会社
再表96/001843 ストローマ細胞が産生するポリペプチド 小野薬品工業株式会社
特許4694580 ヒトおよび哺乳動物の幹細胞由来神経生存因子 本庶 佑 他
特許4545685 心臓疾患治療物質のスクリーニング方法および心臓疾患治療医薬組成物 小野薬品工業株式会社 他
特許4532409 ヒトPD-1に対し特異性を有する物質 小野薬品工業株式会社 他
特許4409430 免疫賦活組成物 小野薬品工業株式会社 他
特許4249013 PD-1に対し特異性を有する物質 本庶 佑 他
特許4024282 新規なポリペプチドESDN、その製造方法、ESDNをコードするcDNA、そのcDNAからなるベクター、そのベクターで形質転換された宿主細胞、ESDNの抗体、およびESDNまたは抗体を含有する薬学的組成物 小野薬品工業株式会社 他
特許4018122 PD-1欠損マウスおよびその用途 小野薬品工業株式会社 他
特許3911416 新規なポリペプチドESDN、その製造方法、ESDNをコードするcDNA、そのcDNAからなるベクター、そのベクターで形質転換された宿主細胞、 ESDNの抗体、ESDNまたは抗体を含有する薬学的組成物、ESDNを用いたスクリーニング方法、および抗ESDN抗体を用いたESDNの免疫化学測定 法 小野薬品工業株式会社 他
特許3871326 PD-1欠損マウスおよびその用途 小野薬品工業株式会社 他
特許3705732 新規なポリペプチド、その製造方法、そのポリペプチドをコードするDNA、そのDNAからなるベクター、そのベクターで形質転換された宿主細胞 小野薬品工業株式会社
特許3586243 高感度イムノアッセイ法 独立行政法人 科学技術振興機構
特許3454310 プログラムされた細胞死に関連した新規なポリペプチドをコードするDNA 本庶 佑 他
特許3454275 プログラムされた細胞死に関連した新規なポリペプチドおよびそれをコードするDNA 本庶 佑 他
特許3367581 新規なポリペプチド、その製造方法、そのポリペプチドをコードするDNA、そのDNAからなるベクター、そのベクターで形質転換された宿主細胞 小野薬品工業株式会社
特許3229590 cDNAライブラリーの作製方法およびポリペプチドのスクリーニング方法 本庶 佑 他
特許3068026 B細胞分化因子の製造方法 本庶 佑
特許3022950 B細胞分化因子 本庶 佑
特許3016756 ヒトB細胞分化因子の製造方法 本庶 佑
特許2879303 cDNAライブラリーの作製方法、および新規なポリペプチドとそれをコードするDNA 本庶 佑 他
特許2763026 ヒトB細胞分化因子をコードする遺伝子系 本庶 佑
特許2642103 ヒトB組胞分化因子 本庶 佑
特許2514631 B細胞分化因子をコ―ドする遺伝子 本庶 佑
特公平08-009640 ヒト・インターロイキン-2受容体 本庶 佑
特公平07-040943 新規なポリペプチドをコードするDNA及びその製造方法 本庶 佑
特公平06-092439 インタ-ロイキン2レセプタ-及びその製造法 本庶 佑
特公平06-091823 新規DNAおよびその製造法 本庶 佑

特許出願費用の相場

最近の弁理士の急増と、特許出願件数の減少、リーマンショック、東日本大震災、円高による企業の海外進出等で特許出願費用を安くダンピングする特許事務所も出てきている。

一方で、特許出願1件最低60万円、通常80万円以上、という特許事務所も存在する。

なので、特許出願の相場というものはない、と考えた方がよいと思うが、多くの事務所は20万円~40万円程度と思われる。そして何でもそうだが、一般には高額の方が明細書の品質がいいことが多い。もちろん、例外もあるが。

また、20万でやるところは、電気関係等大量に出願している企業を相手にする場合である。個人で非常に手間がかかり、何度も明細書を書き直したり、実施例を追加した場合は60万円以上になることもありうる。

特許出願費用はいわば弁理士の労働時間に対する対価のようなもので、発明がわかりやすく、明確で、弁理士が短時間で書ける場合は安くなり、弁理士が非常に長い時間を拘束される場合は高くなる。なので、弁理士に依頼する場合は、できれば発明が完成し、このような事業をするので、こういう権利を取りたい、といったことを確定させた上で相談する方が安上がりになる。

逆に、今こういうことをしているが、この中から発明を見つけ出して権利化して欲しい、という場合は、そのヒアリングの時間もかなり長く拘束されるし、その中から発明を見つけ出して特許明細書案を作成すると、それだけ手間がかかり費用も高くなる。

さらに、「あ、そういえばこういうデータもありました」と言って新たなデータを出してきて追加記載や請求項の書き直しになる場合もある。そうなると、弁理士としては2度手間となり、費用も高額にしなければ他のクライアントとのバランス上つり合いが取れない。明細書を何通も作成しているようなものだからだ。

そういう意味で個人のお客さんは手間がかかり、何度も請求項を書き直し、質問も多いので、本当は60万円以上取りたいのだが、現実にはそれほど金銭的に余裕のある人は少数で、赤字に近い状態で依頼を受ける場合もある。中には、生活保護を受けているのに特許出願や実用新案登録出願を依頼してこられる方もいる。

また、大手企業でも知財部予算が減ったために弁理士事務所に値引き交渉をしてくる場合もある。これは大手に限らず、中小企業でもそういう値引き交渉はありうる。

さらに、非常に難しい案件だけを、通常よりも安い値段でやってくれないか?と言ってくる会社もある。これだと、コストパフォーマンス的に完全に合わないので、特許事務所としては、断る場合もあり得る。

他の案件よりも非常に難しい、ほとんど無理な注文をつけてくる場合に、他のお客様よりも安くする、というのは他のお客様からみれば、えこひいきして異常な値引きをしているようなものだ。値引き交渉をされるにしても限度があり、これ以上安くすると経営が成り立たなくなる、という場合はお断りするケースもありうる。

さらに相見積を取ってできるだけ安価な事務所を探そうとしている人もいる。

それはその会社の方針だから仕方がないが、安かろう、悪かろうの品質にならないように特許事務所や弁理士を選ばないと、優秀な弁理士であれば権利化できるものを、安いという基準で弁理士を選んだ結果、使えない権利しか取れないか、簡単に拒絶されてしまう場合もありうる。

もちろん、昔から伝統があって、優秀な弁理士が大勢いる名門特許事務所が若干安くするのは企業や個人にとって歓迎すべきだろうが、いわゆる即独、つまり、あまり経験を積まずにすぐに独立する弁理士もいる。

そういうあまり経験豊富でない弁理士が非常に安価な値段設定で特許出願しているのを見つけて値段だけで依頼先を決めるのは、発明者(出願人)にとっては、せっかくのいい発明が権利化できなかったり、権利化できても非常に狭い権利になるというリスクがある。

これは商取引でも常識だろう。値段が安いのにはそれなりの理由があり、高額でも依頼が絶えない事務所はやはりそれだけの仕事をしていると考えた方がよい。

例えば、特許がしっかりしていれば100億円儲かるところを、明細書の出来が悪いためにあっさり回避されて1円ももらえないどころか、自社事業にライバルが参入して自社事業の売上が下がるようなリスクもある。

そういう意味では特許出願はしっかりした、質の高い明細書を書く特許事務所に依頼するのが結局は安上がりになる。

特にベンチャー企業は特許が命なので、その分野の腕のいい弁理士を選んで、最高品質の特許を出願すべきだろう。それにより、ベンチャーファンドから数億~数百億円の資金調達ができるかどうかが決まるからだ。

億の出資をしてもらうのに、特許出願費用をケチったために、事業を守れない狭い権利しか取れない特許を出願したのでは、出願する意味が薄れる。

そういう意味では、特許申請のような、弁理士の腕により雲泥の差が出るサービスについては、値段ではなく、専門分野とその弁理士が頭がいいと感じられるか?を考えて選ぶのがよいと思う。

つまり、自分のいうことをきちんと理解してくれ、的確に発明を理解し、本質を捉え、事業戦略も理解した上で、出願戦略を立て、外国出願の経験も豊富で、外国でも難しい拒絶理由に対応して特許化できる弁理士を選ぶべきだろう。

それとは逆に、メーカーと製品名が同じであれば、どこで買っても品質が同じカップラーメンやチョコレート等の日用品であれば、1円でも安いのを買えばよい。

しかし、特許出願明細書はその弁理士の過去の全ての知識、知恵、ノウハウの塊である。戦略思考のできる弁理士もいれば、ただ、経験からのみ明細書の形にする弁理士や技術者もいたりする。

博士号を持っていたり、大学教授だったり、研究開発歴が長かったり、知的財産業務歴が10年、20年と長い弁理士もいれば、大学の学部卒で、特許事務所に入って数年で独立する弁理士もいる。

だから特許事務所を選ぶ場合は、値段で選ぶのではなく、所属弁理士の経歴を見た上で自社の事業を最も適切に守れると思える弁理士のいる特許事務所に依頼すべきだろう。

ちなみに大平国際特許事務所では、元大学院大学教授、博士号取得、東京大学卒業、元大企業知財部にも在籍し、大学知財部、TLOなども含め、知財経験15年以上、研究開発歴20年以上の弁理士がいる。

そして、元在籍した大企業ではグロービス・マネジメント・スクールで経営戦略、マーケティング戦略を学び、さらに独立後もジェイ・エイブラハムのマーケティング戦略をマスターしているので、売上を上げるコンサルティング、コーチングも可能である。いわば、知財だけでなく、トータルに売上アップのアドバイスもできる弁理士とも言える。

この経歴の弁理士に特許出願を依頼したいと思えば、以下か、左側のメニューからお気軽にお問い合わせ下さい。所長弁理士の大平和幸が対応します。

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長い拒絶理由通知への応答

最近、長い拒絶理由通知を受けることが増えてきた気がします。日本では、引用文献も4~5件程度が多かったのが、最近では7~8件位のが増えた印象です。さらに技術水準を示す文献が5件位付いている場合もあります。

これは、研究者の数が増え、科学雑誌も細分化して種類が増え、論文が多くなったことも一因でしょう。一説には1年間に出る情報量が、その1年前より以前の有史以来の情報全てを合わせたものよりも多くなっているとも言われます。それほどの情報量が毎年新たに発生しているわけですから、拒絶理由の根拠が多くなるのも当然でしょう。

日本の拒絶理由通知で10ページ以上、米国の拒絶理由(オフィス・アクション、office action)では30ページ位のものもあります。引用文献の数も、通常は5~6程度ですが、8とか、10以上文献やホームページが引用されるケースもあります。項目数が20位あることもあります。

日本の拒絶理由通知は、日本の実務を熟知しているので、私にとっては長くても引用文献が多くても何も問題ありません。

問題は、海外の長い拒絶理由通知で、反復が多い拒絶理由通知です。例えば、5種類の中から任意の2種類を選んで使用するような発明の場合、組合せは5×4で20種類できます。審査官の中には、この20種類を網羅的に各組合せ毎に拒絶理由を打ってきたりします。もちろん、引用文献は構成に応じて組み合わせを微妙に変えています。

すると、項目数で20項目となり、引用文献もかなり重複しますが、項目ごとに微妙に変えてきて、何がポイントなのかよくわからず、なぜ、このような形で拒絶理由を打つのだろう?と考え込むときもあります。

それに、各組合せ毎に拒絶理由を打たれると、その組み合わせ毎に反論をする必要があり、各組合せ毎に、構成の容易性、効果の顕著性、商業的成功、long felt needsなどを検討する必要が生じ、非常に大変な作業になります。

もちろん、それらを一刀両断できるような要素がある発明であればいいのですが、非常に技術水準に近い発明の場合は、あらゆる組合せに先行技術があったりして、とても一発で特許になるような限定もできません。(追記:その後、このような非常に長いオフィス・アクションに応答したところ、一回の応答で特許になりそうです。拒絶理由が長いからと言って必ずしも特許にするのが難しいわけではない、と気づきました。)

そのような場合でも、発明者に聞くと、先行文献との違いがクリアになり、意外に簡単に特許になる場合もありました。

ただ、一番苦労するのが、特許査定率の低い審査官に当たって、しかも、審査官の言っていることが分かりにくい場合です。

アメリカの審査官は審査官毎に特許査定率が出ていて、平均より低い特許査定率の審査官に当たると拒絶される確率が通常よりも高くなります。

そういう審査官の拒絶理由はやはり、あまりクリアではなく、頭が十分整理されていないような印象を受ける場合もあります。クリアカットであれば、完全に論理で真っ向から論破できるのですが、あいまいな議論で拒絶査定を出されるのが一番困ります。

そういう場合は、RCE(再審査請求)ではなく、アピール(審判)に持って行けば、審査官が変わるので、特許査定率が飛躍的に上がったりします。

実際、拒絶査定率が9割の審査官の場合に、アピールに持ち込み、審査官が変わるだけで、特許査定率80%に跳ね上がったりします。

アピールする場合は、最終拒絶理由通知(final office action)の応答期間内に、特許公判審判部(PTAB : Patent Trial and Appeal Board)に、審判請求書(notice of appeal)を提出し、審判請求料を支払う必要があります。以前は審判請求料は630ドルでしたが、料金改定で800ドルになりました。

審判請求中にもRCE(再審査請求)ができるので、アピールの中で補正が必要になれば、RCEをかけて、補正して、再度審判請求する、ということも可能です。その場合に最初の審査官がまた審査するかはわかりません。同じ審査官だと、RCEしても拒絶され、再度アピールするしかなくなる可能性もあり得ます。

特に米国の場合は、審査基準を正確に適用せず、ディベート的に自分の説に固執する審査官もいるようです。そういう場合は、RCEを繰り返しても特許にならない可能性が高いですから補正や継続出願で普通の審査官なら特許になるレベルにした上でアピールに持ち込むのがよいと思います。

日本でも、審査官毎に特許査定率を出してくれればいいのですが、日本では、拒絶査定が来たら一律審判一択しかないので、米国のように再審査を請求して同じ審査官が延々と審査する制度はありません。その意味では日本の方がいい制度とも言えます。

ただ、個人的には、日本でも再審査制度があれば、無駄な分割出願をしなくていいので、制度的にはあった方がよいと思います。ただ、その際、再審査では最初の審査官以外の審査官を希望すれば、別の審査官に担当してもらえる制度にできれば非常に使いやすい制度になる気がします。

審査官の人によるバラツキは欧州でも大きいそうです。無審査国のフランスの審査官や、特許出願の非常に少ない国(たとえばリトアニアなど)から欧州特許庁European Patent Office: EPO)に審査官が来るので、出身国によって審査官のレベルに大きな差があります。

逆に言えば、甘い審査官に当たることもあるので、特許になりやすい面もあります。実際、日米欧の三極に同じ特許を出願した場合、欧州が一番広い権利が取れるケースも多いです。

審査官によってかなり違いがあることを理解して、どのように反論すれば特許になるか?は審査官により違うと思われますので、どうしても特許にしたい案件は審査官と面接して、審査官の拒絶理由の本当の意味を十分理解した上で、反論するのがお勧めです。

大平国際特許事務所でも、難しい拒絶理由の場合は、審査官と面接することをお勧めする場合が多いです。そうすることにより1回の意見書、補正書で特許化できる場合が多いです。