大学との共同研究、委託研究契約、寄付金とオーバーヘッド

大学に企業が研究を委託する場合、委託研究、共同研究が通常の形態になります。

昔は委任経理金になる寄付金が認められていて、先生個人と契約して、例えば、50万円の寄付をする代わりに発明が出れば特許は全部会社に譲渡する、というような契約が普通に行われていました。

つまり、年間50万円の寄付金でその研究室で大学教授がした発明を企業は全部もらえていたわけです。この委任経理金はほとんどがそっくりそのまま大学の研究室に入っていたと思います。5%程度は引かれていたかも知れませんが。

ところが、2004年の国立大学の法人化により、このような寄付金制度はなくなり、契約は教授ではなく、全て大学側が契約するようになりました。そして、文部科学省の指導により、寄付金については大学側に一切の義務を課せなくなりました。

寄付金は純粋な寄付金であり、何の義務も生じないことになったわけです。もちろん、発明(特許)を無償譲渡する契約はできなくなりました。そして寄付金から5%のオーバーヘッドを取るようになったようです。

すると、大学には一切の義務がないので、将来特許出願を共同にしたり、譲り受ける保証がなくなりますから、寄付金で企業が教授に研究を委託して出て来た発明の譲渡を受けることは確実ではなくなります。寄付金だけもらって何もしなくても、大学教授は何の義務も負っていないのでそれでも契約上問題ないわけです。すると企業としても、そういう契約に基づく寄付金は出す理由がなくなり、徐々に減っていきました。もちろん、最初の関係作りが目的、という場合には使えると思いますが。

大学や大学教授などの教員に、特許や発表に関して何らかの義務を負わせるには、共同研究契約、または委託研究契約をする必要があります。その場合、大学側がその20%とか30%とかをオーバーヘッドとして取るのが一般的です。

これは日本だけでなく海外の大学でも概ね30%位取られるので仕方ありません。

私が大学院大学の教授をしていた頃、よく聞いたのは、共同研究契約だとオーバーヘッドが30%、委託研究だとオーバーヘッドが10%という条件です。

知財の取扱としては、共同研究では、出てきた特許発明は共同出願が前提ですが、委託研究では発明は基本的には大学が特許出願人になります。

例えば、3000万円の共同研究費を出した場合、900万円は大学側に入り、教授の研究には2100万円しか使えないわけです。

企業にしてみれば、大きな額ですから、何とかオーバーヘッドを少なくしたいでしょうが、大学の規定ですので、どうにもなりません。共同研究、委託研究の規定に従い支払う以外には共同研究や委託研究をして出た成果の譲渡を受けることはできません。試薬費の伝票を付け替えたり、試薬、消耗品の現物を会社に発注して大学に納品したりして、あんぐらでやる場合もあるかも知れませんが、その場合は特許が確実にその会社に行くかは不透明です。

また、委託研究の場合は、特許は原則として大学に帰属する、というのが文部科学省の契約書ひな形にあったのですが、柔軟な大学は受託研究でも発明の特許を受ける権利については企業に譲渡することができる、という一文を入れる場合もあり、その場合は委託研究でも特許出願する権利を企業が全部もらうことも可能です。

オーバーヘッドを少なくしたい場合は、このような特約をつけて委託研究をするのも一つのやり方でしょう。ただし、「特許を受ける権利を企業に譲渡できる」という契約ですから、強制力はなく、大学側が譲渡しない、ということも大学の任意なわけで、それだけリスクがある契約とも言えます。

研究員の中には、大学の教授に向かって失礼な態度を取る会社の研究員もいたりします。実際に実力も教授よりもあったりする場合もあります。若い研究員なら、1日中研究に没頭し、最新の論文をほとんど読んでいますから、教授よりも知識も実験技術も上の場合も十分あり得ます。すると、自然に教授をバカにした態度を取るようになったり、教授に早くこのデータを出してくれ、と要求するようになることもあり得ます。

そうした場合に、企業の研究員と大学教員との間が険悪になったりすると、委託研究の成果の特許発明をその企業には譲渡せず、大学が全部承継して、出願し、最悪、ライバル企業にライセンスや譲渡する、という信じられない仕打ちを受ける可能性もないとは言えません。

国立大学法人になる前は、共同研究、委託研究のオーバーヘッドは10%位だったのではないかと思います。大学が独立行政法人になり、運営費交付金が毎年1%づつ減らされるようになり、大学教員の給与の昇給が遅くなったり、いろいろなところで経費削減されました。

1%と言っても、数百億円の交付金があれば数億円が減るわけで、大学側にとってはかなり痛いです。それが5年間続きましたから、5%が削減されたわけです。東大、京大レベルだと、900億、600億程度ですから、それぞれ、45億、30億円もの予算が減らされたことになります。30億円といえば、300人以上の人件費に相当します。

それを各大学が自分で稼いで補償するには、特許譲渡やライセンス料で稼ぐか、ベンチャー企業を興して株式公開(IPO)で稼ぐか、共同研究や委託研究のオーバーヘッドで稼ぐしかありません。

そのため、共同研究のオーバーヘッドが30%と高率になったのだと思います。

大企業にとっては、1000万円位研究費が余分にかかっても何とかなりますが、中小企業の場合、2000万円と3000万円では大きな差になりますから、中小企業には多少の割引をしてもいい気もしますが、それは大学の裁量でしょう。

そのため、上述のように、本来は共同研究(オーバーヘッド30%)にすべきところを委託研究(オーバーヘッド10%)にして、知財については契約で特約を付ける、というやり方もあります。それにより、より多くを研究費の方に回すことが可能になります。

とはいえ、これはあくまでも制度の悪用みたいなもので、本来であれば、企業としては、オーバーヘッドを最初から見越して予算化するしかないと思います。

大学に委託するか、民間の試験機関に委託するか、オーバーヘッドを考えると、民間機関の方が安くて早くて正確、という場合もあるかも知れません。

だとすれば、企業としても大学だけではなく、民間の試験研究機関も依頼する対象として考えてもよいように思います。

一番安価な方法としては、若い研究者を受託研究員として送り込んで、大学のテーマで、会社の方向性と合う研究をやる、という手もあります。そうすれば、受託研究員費の50万程度で1年間大学の研究室で研究でき、教授の指導も受けることができます。

そして、中には、受託研究員の研究試薬費や消耗品代の伝票を会社の方で支払う、というところもあります。少し裏ワザ的なやり方ですが、この方法によれば、大学の研究費を使ってやるのではなく、会社の経費で研究するのと実質同じなので、50万円程度で大学の設備を使って会社の研究をしても大学の研究費が減って大学の研究に支障がでるおそれもありません。また、その企業が希望する研究テーマで研究することも可能です。

とはいえ、社員1人を受託研究員として大学に派遣すれば年間1000万円程度の人件費等がかかるので、結局その位は必要で、大学に何かを依頼するにはそれなりの出費を覚悟する必要があります。

そうとしても、委託研究費3000万円位で申請のデータが揃うのであれば、自社で全部やるよりは安いはずなので、そのあたりは、どこに依頼すれば最もコストパフォーマンスがよいか、の問題になると思われます。

大平国際特許事務所では大学、企業の共同研究契約、受託契約に関するご相談も承っております。海外との英語による交渉や、英文ライセンス契約書の作成も行っております。以下からお気軽にご相談下さい。

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