論文のねつ造問題と、アイデアだけの特許申請

論文のねつ造問題は、昔からありました。真理を探究する科学の世界ではあってはならないことですが、ねつ造をする人達がいつの世にもいるようです。

最近では小保方晴子氏のSTAP細胞事件が有名ですが、私が研究者をやっていた30年位前にもねつ造で有名な研究者がいました。これは、正直な羊の群れの中に詐欺師のオオカミが紛れ込むようなもので、善意が大前提の世界では、悪意を見破るのは難しいと思われます。

2000年代には、東大でも少なくとも2人ねつ造で大問題になっていました。2000年代前半で問題になった東大教授は20件以上の論文がねつ造だったようで、以後、アカデミックポストには就けなかったような話を聞いています。

さらに、最近では、東大医学部、分子細胞生物研究所の6研究室の26の論文がねつ造である疑いで学内で調査中です。研究費を取るためには、ギリギリのデータで論文を出したり、写真を修正したりする必要がある場合もあるのでしょうが、本質の部分でねつ造してないことを祈っています。

ねつ造した場合、研究室内部ではばれているもので、いずれ内部告発されると思われます。そして、内部告発によりねつ造であることが分かれば科学研究者としての道は断たれます。大学教授であれば、アカデミック・ポストに就くことは非常に難しくなり、人生が全く狂ってしまいます。

これに対して、特許出願の場合は、論文のように審査員の査読があるわけでもなく、形式さえ特許庁の形式に則っていれば、内容がどうであれ(ねつ造であっても)特許出願としては受理されます。

それどころか、企業が他社を欺くためにウソのデータで出願することもありえます。そういう意味では、特許出願ではねつ造は法的にはもちろん、倫理的にも営利企業の場合はあまり問題にならないと思われます(ただし、ねつ造データで権利化した場合には問題になり得ます)。

また、実際に試作もしてない、頭の中で考えたアイデアだけで特許申請をする一般人もかなり多いです。試作をしてなければ本当に動くかどうかわからないのですし、発明が完成しているとは言えない場合もあります。

例えば、死者復活製法という特許申請がありましたが、具体的な実施例は一切記載されていませんでした。これは、データをねつ造しているわけではないですが、現実に不可能な発明を出願しているわけで、法上の発明に該当しない(特許法第29条第1項柱書違反)か、または、実施可能要件違反で拒絶されることになるでしょう。

データがない場合は、ねつ造しているわけではないので、故意にウソのデータを書いて詐欺をしているよりはまだマシかも知れません。

ねつ造データで出願する場合、本当にできるかどうかはわからないけれど、理論的にはありうるから適当なねつ造データで特許出願や論文投稿をしておいて、誰かが本当にできたら、実は自分が先にできていた、と名乗り出る、ということも可能です。

ただし、全てがペーパーイグザンプルで、ほとんどが間違い(実施不可能)、というような場合は、1つか2つ正しい発明が含まれていても全部拒絶されるようですが。

未来を予測するには、未来を創るのが一番確実、とは言われます。また、思考は現実化する、とも言われます。そういう意味で、まずはデータを作り、それが実現する世界を創造すれば、ウソのデータも本当になるのかも知れません。最初の予想が正しければこのやり方も可能でしょう。

しかし、ウソの法則(間違った発明)を予言し、自らそのウソの法則を証明することは不可能ではないかと思います。科学の法則は、思考によりウソが本当に変わることはないでしょうから。

ですから、科学的発見、発明については、真摯にデータと向き合い、真実を探求する、という姿勢が求められます。有名になりたい、とか、お金を儲けたい、地位が欲しい、という動機で研究者になる人がねつ造に走るのではないかと思います。

 

特許出願明細書の実施例の書き方

私は主に個人向けと会社のお試し用に激安特許出願というのもやっているのですが、その場合、実施例と図面は発明者様に書いて頂くことにしています。

実施例というのは、実際に発明者が行った実験や試作のやり方、データ、製品の使い方、などを書いた部分です。レシピ、仕様書や使用説明書のようなものです。この部分は実験データですから、当所で勝手にねつ造するわけには行きませんし、発明者が一番詳しくわかっているので、発明者様が書くのが一番効率もよいと思います。

弁理士でも自分の専攻分野でやったことのある実験であれば書けるのですが、やはり、実際にやった人でないとわからない部分もあるので、発明者様に書いて頂くのがベストだと思います。これは会社や研究所の知財部でも同じだと思います。

科学者で研究を論文にまとめたことのある方であれば、材料と方法(materials and methods)という部分、および結果の部分が実施例に該当します。実験プロトコールくらい詳しく書きます。

ただし、特許明細書の場合は、所定の記載要件、実施可能要件を満たす必要があるので、専門家がそれを読めば、実際にその物を作れ、使用できる必要があります。

この点が科学論文のようにわざとできないように書いても(ノウハウを隠しても)問題ないのとは異なります。実施可能要件を満たさなければ特許の場合は拒絶理由、無効理由になるので、実際に実施できるように書くことは必須です。

イメージとしては、修士論文、博士論文の材料と方法くらい詳しく書くのがよいです。メーカー名、型番まできちんと書きます。さらに、そのメーカーが潰れたり、型番が変わっても代替品で実施可能にするために、一般的な形で原理や材料も書いておくのが望ましいです。

一般的には、メーカーと型番を書いておけば材料に関しては実施可能要件を満たします。しかし、特別な抗体や細胞を用いないとできない場合は、その抗体産生細胞や細胞を特許微生物寄託センターなど所定の機関に寄託する必要がある場合もあります。

発明者の中には、実施例を書くことが難しい方もいるようです。その場合には当所で実施例、図面も含め全体を作成することも可能です(その分料金は上がります)。

実施例を書いて下さい、というと、かなり多くの人が明細書全体を書いてきます。私としては、実施例と図面でよいと言っているのですが、なぜか、請求項も含めて全体を書いてきます。実施例の意味が分かってないのかもしれません。ただ、背景技術も書いていただけると非常にありがたいです。

実施例は実施形態の中に書く場合もありますし、実施形態の後に【実施例】として実施形態と分けて書く場合もあります。いずれにせよ、実際にその発明を実施した方法、製造方法、使用方法などを書いた部分です。

基本的には、実際に試作したり、実験をしたりしたデータを記載します。実験をせずにこうしたらできる、という形で書くこと(ペーパーイグザンプル)もありますが、日本では実施例がそれのみの場合は拒絶されるケースもあり得ます。ただし、そのとおりにやってみたらできた場合はペーパーイグザンプルでも実施可能要件を満たすと判断される場合もあり得ます。

実際に実施せずに理論的にこうやればできる、という形式の実施例はペーパーイグザンプルと言われ、言わば頭の中だけで考えた実施例ということです。米国では、ペーパーイグザンプルについては制度上認められており、文末を現在形で記載することになっていますから、ペーパーイグザンプルは文章を見ればわかります。

特に、個人発明家の方で、永久機関を発明した、というような場合は必ず試作をしたり、比較対象(コントロール)のある実験をして、きちんと機能するかを確認することをお勧めします。頭の中ではできても、実際に作ってみると些細なところで問題(摩擦や開閉速度等)があったりして現実には動かない場合もありますから。

実施例の書き方としては、同業の専門家(当業者といいます)がその実施例を読めばその発明品を作れ、使用できるように書く必要があります。

ですから、実施例には、製造方法、材料、使用方法等を書く必要があります。論文でいえば、実験材料と実験方法に書くようなことが該当します。実際にやってはいないけれど、理論的にできるものがある場合は、そのバリエーションを実施形態の方に書く必要があります。例えば、実施例ではカム構造で書いているけど、クランクでもできる場合はそれを実施形態に記載して請求項をその両方を含む形で書きます。

バリエーションを書いておかないと特許請求の範囲から少しずれたものを使われた場合に特許権の範囲から外れてしまうおそれがあります。

また、製造方法では、材料の材質もできるだけ広く書いて置く必要があります。ゴムなのかプラスチックなのか、アクリル樹脂なのか、等です。材質については、属をまず下記、次にその種を書きます。例えば、魚類という属を書いて、次に、スズキ目、さらにその下位の種として、スズキ、マダイなどを書きます。つまり、階層的に書くのがよいです。この部分をしっかり書いてないと、米国では、発明を所有していない、という拒絶理由がきますから、米国出願を予定している場合はしっかりと属、種を列挙する必要があります。

また、透明や、色を付けることが特殊な効果を生む場合、透明なのか、色を付けるのか、蛍光色か等も書く必要があります。

これは、本体の部品についても言えます。その明細書を見たら実際にその製品を作れ、明細書に記載の効果を発揮する必要がありますから。

また、特殊な職人用語等は、標準的な用語に置き換え、略号などは正式名称と定義をきちんと書いておく必要があります。もちろん、辞書を調べれば簡単に一義的に意味が決まる場合は技術常識ですから問題ないのですが、定義が複数あるような場合にはどちらの定義かを明確に書いてないと後で問題になる場合もあり得ます。

また、海外出願を予定している場合には、できるだけ主語を書くか、受動態で書く方が翻訳がやりやすくなるので、主語を省略せずに書くのがよいです。

当所の場合、軽く先行特許調査をして参考になりそうな特許出願明細書があればそれを送って参考に記載してもらうサービスもやっています。類似の明細書の実施例を見ればイメージしやすいですから。

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進歩性が認められる実験データの取り方と明細書の書き方

審査基準が昨年改訂され、進歩性で効果の参酌がかなり弱い書き方になっているように感じました。

異質な効果や同質であっても際立って優れた効果があれば、進歩性の主張に有効なのは変わらないのですが、どうも、改訂により、構成の容易想到性、つまり、発明の構成を当業者が容易に思いつくかどうかの方がより重視されるような印象を持っています。

実際、最近の審査では、予想外の効果を主張する場合、その効果を発揮することが証明されている範囲でなければ進歩性を認めない、という感じの審査官もいます。

確かに、予想外の効果の無い範囲まで進歩性を認めるのは、厳密に言えばおかしいのですが、昔はそこまで厳しくなかったように思います。単に予想外の効果がある、と主張すれば、実施例に限定されずに特許になっていたことがありました。

中国でも同じようなことを言われることがあり、実施例に記載の範囲までしか進歩性(中国では創造性といいます)を認めない、という審判官もいたりします。

このことから言えることとしては、予想外の効果、あるいは、際立って優れた効果を主張して進歩性を認めさせることができるのは、原則、実施例で効果が証明されている範囲である、と考え、実施例の記載を充実させるとともに、実施形態の中でも効果のある範囲をしっかり段階的に書いておくことでしょう。

後から実験データを出して補正するにしても、実施形態に範囲を書いていなければ新規事項の追加として補正が認められないおそれがありますから。

そして、進歩性の拒絶理由はほとんどの場合に来ると考えられることから、この効果の主張を考慮して実験データを取っておくことが非常に重要になります。

それには実験計画法に従って実験を組むのは当然として、効果が出る範囲の境界(臨界点)とその少し外側までしっかりデータを取っておくことでしょう。

ときどきあるのは、右肩上がりのデータで、上がっている途中までしかデータを取っていない場合です。その場合に顕著な効果を主張すると、上昇途中の範囲までしか権利化できませんから、その後のさらに効果の高い部分が権利範囲から外れます。そうすると、簡単にエスケープできる使えない特許権になってしまいます。

そうならないように、データは必ずピークの両側を取り、片方だけをとらないこと、2次元ならマトリックスでデータを取っておくことです。

研究者は、1つのテーマがうまく行くと、その実験は終わったと思って次のテーマを始める傾向があります。しかし、国内優先権主張出願を使えば、最初の出願から1年以内であればデータを追加して出願できます。それまでに、できるだけ、特許化に必要なデータを揃え、強くて広い特許請求の範囲を取れるように明細書を補強すべきです。

このデータさえあれば、事業を守る強い特許権が取れたのに、と後悔しないように、研究者は特許に必要なデータをきちんと取る必要があります。一方で知財部員もそのような教育をしっかりやるべき、と思います。それが知財部員の一つの役割ではないかと思います。

広くて強い特許を取るには

特許にも広くて強い特許権もあれば、狭くて弱い特許権もあります。広くて強い特許を取得するために必要なことについて解説しました。

権利範囲を広く取る場合には、明細書に広くて、深い範囲まで十分に記載する必要があります。

しかし、それ以前に、データが十分取れていなければ簡単にエスケープできる特許になってしまいます。

例えば、データを点でしか取らない人もいます。科学者の常識から考えれば、上昇途中でデータを取るのを止めることはあり得ないのですが、企業の研究者の中には、まだ上昇途中なのに、途中で実験を止めてしまう人も意外にいます。

どうせ実験をやるなら、一度ピークになりそこから反転するところまでデータを取るべきです。しかし、会社員の場合は次から次へと仕事が回ってきますから、1つの開発に何度も実験できない場合もあるようです。

そういう場合は均等の範囲、とか何等かの理由を付けて権利範囲を広げることを試みますが、やはり実験データがないと限界があります。

そういう意味で、最初からできるだけ広い範囲までデータが取れるようにし、仮にピークが出てこない場合はすぐに再実験できるようにしておくのが望ましいです。

広くて強い特許が取れれば、その後のビジネス展開も楽になり、独占販売で利益を独占することも可能です。

ぜひ、データの取り方を工夫して広くて強い特許を取得して欲しいと思います。

 

プロダクト・バイ・プロセス・クレームと請求項記載要件

本年2015年6月5日最高裁小法廷判決で、プロダクト・バイ・プロセス・クレームにより規定された物については、物として同じであれば、同じ物として扱うという最高裁と、プロダクト・バイ・プロセス・クレームでなければ表現できない事情がある場合にのみ物として同一であれば同一で、そうでない場合は製造法に限定して解釈するという特許庁の2重の基準とに齟齬があり、真正か、不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームかどうかを審査段階に委ねることとしました。

つまり、今後は特許庁で真正のプロダクト・バイ・プロセス・クレームは認めるが、不真正のプロダクト・バイ・プロセス・クレームは請求項の記載が不明確であるとして拒絶理由が出されるようになったということです。つまり、以下のような対応となります。

「必要であれば審査官は、物の発明に係る請求項の少なくとも一部に「その物の製造方法が記載されている場合」に該当するとして、明確性要件違反の拒絶理由を通知することで、出願人に、「不可能・非実際的事情」が存在することの主張・立証の機会や、反論・補正の機会を与えることとする。」
(「物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合」に該当するか否かについての当面の判断)

この場合の対応としては以下の2つのやり方があります。

類型(i):出願時において物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であった場合
類型(ii):特許出願の性質上、迅速性等を必要とすることに鑑みて、物の構造又は特性を特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要する場合

上記類型iは、例えば、物を構造で記載することが不可能な場合、分析が技術的に不可能な場合が該当すると思われます。

類型iiは、物で特定することが不可能ではないが、それをやるには、膨大な実験が必要で、経済的にも過大な支出が必要になったり、膨大な時間がかかるという事情であれば、たかだか30万円の出願について、数億円以上のコストをかけてまで分析をするのは非実際的だろう、ということではないかと思います。

このプロダクト・バイ・プロセス・クレームについて動画を取りました。一部、経済的な理由は非実際的事由に当たるか、というのが論点になるのでは?と話していますが、上記の基準ですと、経済的な理由も非実際的理由になるようです。

とはいえ、例えば、FTMSのように、分子量から分子が特定できる装置があれば一発で物として特定できるような場合はどうなのか?という感じがします。

つまり、ある装置さえあれば、比較的短時間に物として特定して請求項に記載できる場合です。

これが、年間研究費100億円の企業であれば、十分可能なので、非実際的事情がなかった、となり、年間売上数億円規模の企業であれば、非実際的事情と認められるのか?というのがやはり疑問ではあります。

 

特許性(進歩性)が無い、と自白する特許出願明細書

特許出願するからには、特許を取ることが目的のはずですが、ときどき、自分から特許性がない、ということをわざわざ記載している明細書があったりします。

有名な話では、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授のiPS細胞に関する特許出願で、ヒトではコロニーが得られなかった、という実施例の記載がありました。

普通に考えたら、ヒトではうまく行かなかった、と書いてあるわけですから、特許は登録されないのですが、特許庁からの拒絶理由に対して、コロニーは得られなかったけど、iPS細胞はできていて、増殖しなかっただけだ、という反論をして、それが認められて特許登録されました。

もう少し詳しく言うと、iPS細胞の生成ステップと増殖ステップを分け、ヒトではコロニーは得られなかったが、ヒトiPS細胞自体はできていて、増殖しなかったためにコロニーが得られなかっただけだ、と反論し、それが認められています。これは、米国、欧州でも同様に認められています。

山中伸弥教授の場合は、優秀なスタッフや優秀な弁理士チームが対応したので非常に不利な状況でしたが、うまい理屈を組み立てて特許化できました。

しかし、普通の人が、●●できなかった、と実施例に書けば、その部分は発明として未完成なので、その特許出願の権利範囲には入らない、と自白しているようなものです。

ですから、できなかった場合は、正直にできなかった、と書くのではなく、何も書かない、という戦略もあると思われます。

有意差が無いというデータの場合に、このデータには有意差はない、と書いてしまうと、そのデータは特許性の判断では評価されないおそれもあり得ます。

科学の世界では正直であることが求められますが、特許出願の場合には必ずしもすべてを正直に書けばそれで足りる、というものでもありません。法律の世界では黙秘権も認められるので、わざわざ不利になるデータも記載して権利範囲を狭くする必要はありません。

さらに言えば、実験してないから、この部分は権利は要りません、というのは、科学者としては非常に立派な態度ですが、特許で争う場合には、穴だらけの特許しか取れず実効性がない場合もあり得ます。

そういう意味では、法律と科学の両方にまたがる特許はある意味グレーゾーンともいえ、純粋科学とはちょっと異なる発想が必要な場合もあるのかも知れません。

シミュレーション結果を使って特許出願する場合

例えば、火星にロケットを飛ばすような発明の場合、実際に火星に打ち上げて成功してから特許出願する、というのでは、発明完成から特許出願までに時間がかかりすぎ、また、公知になってから1年以上かかるおそれもあります。

あるいは、飛行機の発明で見たらわかるような発明だと、試験飛行の際に一般人に見られると公知になり、新規性喪失の例外規定を使わないと特許が取れなくなる場合もあります。

そこで、ある程度の段階で、プログラム上でシミュレーションしたり、モデル実験をしたりして結果を予想することがあります。

そのシミュレーションどおりに実際にも動いて、成功すれば、そのシミュレーションの条件で実施できるわけですから、特許出願した場合に実施可能要件を満たします。

しかし、何かパラメーターが間違っていたり、条件設定に漏れがあったりして、実際にはその条件ではうまく行かない場合もありえます。

そういう場合は、その特許出願は仮に特許登録されたとしても実際には実施できない発明ですから、実施可能要件違反の無効理由を含むため権利として持つ意味がありません。

これはペーパーイグザンプルと同じことで、予想して書いておいて、その後、実際そのとおりにやってうまく行けば特許としても有効に権利行使できる、と言うのと似ていると思います。

要は、シミュレーションが正しく、その条件で実際に実行して製造でき、予想通りの効果が出るのであれば、シミュレーション結果をもとに特許出願しても特許が登録される可能性はある、ということです。

もっと確実には、シミュレーション方法そのものを特許出願する方法もあり、この場合は、実際のロケットを飛ばす方法ではなくロケットを飛ばす軌道をシミュレーションするなどの方法発明になります。

シミュレーション方法はソフトウエアの発明になり、ロケットを飛ばす方法は実際に飛ばす方法になりますから、特許としても違いますし、効力も異なります。

シミュレーションソフトの発明は、そのソフトを製造、販売、使用する行為が侵害になりますが、シミュレーションした結果を使って実際にロケットを飛ばす行為にまで及ぶかは、請求項の書き方によります。そのシミュレーションソフトを使って計算してロケットを飛ばす方法、であれば、ロケットを飛ばす行為そのものも権利範囲に入ります。

ロケットを飛ばす方法、というクレーム構成ですと、シミュレーションプログラムは権利範囲に入らない可能性があります。これも請求項の書き方次第ですが。

つまり、シミュレーションプログラムを使ってシミュレーションした結果に基づいて特許申請をする場合は、プログラムと方法の両方を請求項に書いておけば、両方とも保護できる可能性がある、というわけです。例えば、請求項Xのプログラムを用いてロケットを火星に到達させる方法、あるいは、請求項Yのシミュレーションプログラムの計算結果を用いてロケットを衛星の周回軌道に乗せる方法、のような請求項が考えられます。

ですから、どちらか1つしか権利化できない、というわけではなく、両方とも権利化できる請求項の書き方もありますので、そのあたりも検討されることをお勧めします。ただし、場合により、発明の単一性が無くなり、分割出願が必要になるかも知れませんが。

発明抽出と特許出願

発明者に発明のヒアリングに行くと、発明内容と特許出願の方向性がほぼ決まっていることもあれば、発明者がそれまでのデータをいろいろ話して、この話から発明を抽出して特許出願してくれ、という場合もあります。

発明が決まっていて、請求項もこれで書いてくれ、という場合は、方針が明確ですから明細書を作成するのも比較的容易です。

しかしながら、発明者がいろいろデータを出してきて、この中から発明になる部分を抽出して出願してくれ、と言う場合は、出願戦略を検討する必要があります。

ただ出願すればいい、というものではないからです。どういう製品を守るのか、あるいは、ライセンス目的なのか、ただ、特許出願中と記載したいのか、社長室に特許証を飾りたいのか、等により、出願の内容が変わります。

事業がわかっていればその事業を守ればよいのですが、これから製品化する場合で、その製品化も可能かどうかすらわからない状態の場合もあります。そういう場合はとりあえず現状考えている製品を念頭に特許請求の範囲を記載して特許出願することになります。

ところが、その際に、これは使わないから特許請求の範囲に入れなくていい、と言われた部分が後に重要な部分になることもあります。ですので、発明者がこの部分は使わないから書かなくていい、と言われたとしても、明細書本文中には記載しておいて、後で権利化可能な形にしておいた方がよい場合もあります。

そういう意味では特許出願の明細書を書くにはできるだけ広い視野で考える必要があります。広い科学的知識のある弁理士を選ぶとそういう部分でより広くて強い特許明細書を書けるので事業を適切に保護することができます。

大平国際特許事務所でも、将来必要となるであろう内容も特許出願明細書に記載することでお客様が事業を独占できるように出願戦略を練って出願しています。

特許出願端末で使用できない文字 丸数字、半角カタカナ

特許出願はインターネットを介して電子出願端末を使ってやるのですが、ファイルを電子出願端末の形式に変更する際にエラーになる文字がいくつかあります。

そのうちの1つが①、②のような丸で囲んだ数字(丸数字)と、半角カタカナです。こうした文字があると、電子出願端末の送信フォルダにアップしようとしてもエラーでアップできません。

ですので、丸数字と半角カタカナは修正する必要が出てきます。

(1)、1)、i)、I、等は使えるのですが、なぜ丸数字だけがダメなのかは謎です。

また、特許ではカラー写真も特許出願明細書には付けることができません。意匠登録出願では逆にカラーでないとエラーになるのですが。

今はコンピューターの処理速度や記憶装置の容量も大きくなっているので、丸数字や、カラー写真も認めても大丈夫ではないかと思うのですが、まだそこまでは対応できてないようです。

細胞関連の特許の場合はどうしてもカラー写真の方がわかりやすいので、カラー写真の特許出願明細書への添付を認める日が早く来てほしいと願っています。

 

特許申請書類の発明の実施形態の書き方

特許出願書類には、発明の実施形態と、実施例と2種類の実施に関する項目があります。

実施例は実際に行った実験や試作の内容を書きます。つまり、実際の実験結果ですから、言わば点の発明です。

実施例が3つ以上あれば、その3つをつなぐと面ができますが、それを上位概念化することができます。例えば、植物で言えば、単子葉植物のイネやトウモロコシ、双子葉植物のタバコやペチュニア、の2種類で実験をしていれば、植物全体について権利が取れる場合があります。

動物でも、マウス、ブタ、サルの3種類位やっておけば動物全般で権利が取れる場合があります。

それでも実施例はそれぞれが点の発明であり、それだけだと、マウス、ブタ、サルの3種類の動物だけの権利しか取れない場合がありえます。

しかし、実施形態の方で、マウス、ブタ、サルの3種類でできれば動物全般で実施可能である、という理由をきちんと書いておくことで、動物全般について権利が取れる場合があります。

つまり、実施形態では、点である実施例を上位概念化してより広い権利を取得できるような記載をするところです。

また、ここで、ペーパーイグザンプルとして、理論的にこうすればできる、ということを書く場合もあります。実際に実施していなくても、通常の専門家(当業者)がそれを見て実際に実験でき、記載されている効果が出るのであれば、実施例がなくても権利として認められる場合もあります。

そういう意味で、実施例のみでなく、より上位概念を含む概念を実施形態に書くことでより広い権利が取得できます。

しかしながら、実施形態に広い上位概念を書いても、実施例が1種類の記載しかなかったりするとそこまでは認められない、という場合があります。そういう場合は、実施例を追加するか、上位概念を少し下位概念まで落として実施例とバランスを取るようにします。このあたりは技術常識との兼ね合いですので、出願時の技術常識を考慮して書く必要があります。